2016/03/02

嵐が丘


  • 1986年フランス映画
  • 監督/脚本:ジャック・リヴェット 原作:エミリー・ブロンテ
  • 撮影:レナート・ベルタ
  • 主演:ファビエンヌ・バベ


 原作は三十歳になるかならぬかの若さで亡くなったエミリー・ブロンテの唯一の長編小説「嵐が丘」。映画の原題は「嵐」です。

 映画的手法の中に演劇的空間が溶かし込まれていると言ったらいいのでしょうか。ひとつひとつのセリフ、ひとつひとつの身振り、ひとつひとつの映像が一点を目指して集中し熱を発し炎を上げます。映画が一般に拡散していく空間を持つのに対してここにあるのは凝縮していく空間です。

 この映画にも外に広がっていく空間があります。それは若い恋人たちが丘を駈けるのを捉えたロング・ショットです。しかし一方の恋人は罠に足を噛まれ、もう一方の恋人は猟銃で捕えられてしまいます。こうして恋人たちは再び凝縮していく空間に投げ込まれ、愛が深いだけに激しい憎悪の炎を燃え上がらせるのです。

 この映画には二つの空間があります。一つは粗野な屋敷、もう一方は洗練された屋敷です。一つを地獄、もう一つを天国のメタファーと考えてもいいかもしれません。いや一つを人間の持つ暗い情念の場、もう一つを明るい理知の場と見做したほうがいいでしょう。
 暗い情念が明るい理知に出会うシーンでは、暗い情念は森の暗がりに立ち、明るい理知は陽光に輝くテニス・コートに立つのでした。

 瑞々しい陽光の中でロマンチックに始まり血と死で終わる夢を通して暗い情念は粗野な屋敷から洗練された屋敷へと移り、明るい理知を破滅へと導きます。そして暗い情念も滅びていくのです。

 しかし最後に残るのは憎悪でなく、純愛です。

 人間の愛は光の向こうでなく、闇の奥にある。人間は逆説的な存在なのかもしれません。

1997/01/04