2016/03/02

ジャンヌ


  • 1994フランス映画
  • 監督:ジャック・リベット
  • 撮影:William Lubtchansky
  • 主演:サンドリーヌ・ボネール/Tatiana Moukhine


 五月晴れの、今日、楽しみにしていた、ジャック・リベェットの「ジャンヌ」を見てきました。

 ジャック・リベットというと、長い、退屈、でも、魅力的というイメージだったのですが、この作品は、最初から最後まで、夢中になって見ました。
 長いのは、相変らずで、2部通して見ると、3時間58分です。
 リベットの過去の作品、例えば、「北の橋」とは、対局にある作品です。「北の橋」は、即興性を最大限に生かして撮られた作品でしたが、この作品は、隅々まで計算された作品でした。
 俳優の1つ1つの動きにも、リベットの計算が感じられました。感心したのは、そんな厳格さが濃厚に感じられるのに、1人1人の俳優がとても生き生きしていたことです。これは、過去の作品において、俳優のもつ創造力を最大限に生かそうとしてきたリベットだから可能だったのでしょう。厳格さと、生き生きとした躍動感、それら2つが結び付いて、僕を魅了したのでした。

 リベットは、もともと演劇的空間を強く感じさせる人でしたが、この作品はとりわけそうです。左右ではなく、奥行きを使った演出が印象的でした。中心となるべき人物は、奥の影の中から手前に来て、そうでなくなれば、また奥の影の中に引っ込みます。
 そして、この作品の基調を決めているのは、中世ヨーロッパの石でできた建物でした。石の建物が、この作品に、荘重さを与えていました。リベットが描きだす、中世ヨーロッパはとても魅力的で、リベットは、ジャンヌ・ダルクではなく、中世そのものを描きたかったのではないかとさえ思いました。

 サンドリーヌ・ボネールの演じるジャンヌ・ダルクは、とても生き生きしていて、いっぺんにボネールファンになってしまいました。
 火のように激しい気性と、異端裁判にあってもにっこりと笑いを浮かべる、窮地にあっても、ユーモアを忘れない快活さ。そして、矢が肩を射抜けば、死にたくないと涙を浮かべ、火刑を宣せられると、取り乱す弱さ。なにより、心を打ったのは、ジャンヌが、自らを「兵士」と呼ぶように、戦うことをなにより愛し、誇る戦士に成長することです。最初、矢に肩を射抜かれたとき、涙を浮かべたジャンヌですが、次に、太股を矢で射抜かれたときは、自分で、矢を抜き、踏み止まって、戦おうとします。

 画面が、真っ暗になって、映画が終わった時、心を洗われるような感動に包まれたのでした。

1995/05/09