ラベル アルノー・デプレシャン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル アルノー・デプレシャン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2016/03/23

魂を救え


  • 1992年フランス映画 11/14シネ・ヴィヴィン・六本木
  • 監督/脚本:アルノー・デプレシャン
  • 撮影:カロリーヌ・シャンプティエ 音楽:マルク・オリヴァー・ゾンマー
  • 出演:エマニュエル・サランジェ/ティボード・モンタラベール/ジャン=ルイ・リシャール


 異邦人の青年が「物」に出会う。そうこの映画を要約できるだろう。

 僕たちは日常生活の中で物に出会うことはない。僕たちは意味でべったり回りを囲まれた世界に住んでいて、物の存在すら忘れている。

 異邦人の青年が物に出会うまでは入念に準備されている。
 異邦人の青年は不当に暴力的扱いを受けることによって、日常世界にひびを入れられる。確固としていると信じていた日常世界が揺らめき始める。日常世界が不安定になったとき、意味というヴェールもまた剥ぎ落ちる。
 異邦人の青年はむき出しの世界に直面するのだ。

 その時初めて青年は物と出会う。

 青年は物と出会ったときにサルトルの小説の登場人物が嘔吐するように鼻血を流す。異邦人の青年が鼻血を流すのは二回だ。日常世界に亀裂が走ったとき、そして物と出会ったときだ。

 青年はある意味で英雄だ。
 普通の人たちのように物を再び意味のヴェールで覆って安全無害なものにしようとはしない。青年は物をあくまでも物として扱う。
 それはこの異邦人の青年が科学者であることと深く関係しているだろう。

 青年は物を冷静に分析しはじめる。無限に続くと信じていた日常世界の安定性を破壊する最初のショックが過ぎてしまえば、ただグロテスクで厄介なものが、語り始める。
 異邦人の青年は物が発する言葉に耳を傾ける。

 異邦人の青年の行為は極めて危険な行為だ。
 社会は何重にも意味に覆われ、そのことによって初めて安定を得ている。物は社会にとって危険なのだ。

 青年が物の言葉を伝える使者になろうとしたとき、社会は青年を抹殺しようとする。

 青年は戦い、なんとか生き延びる。

 それはたぶん監督の僕たちに対する励ましだろう。

1997/11/14

そして僕は恋をする


  • 1996年フランス映画 3/18シネ・ヴィヴィン・六本木
  • 監督/脚本:アルノー・デプレシャン
  • 撮影:エリック・ゴティエ 音楽:クリシュナ・レヴィ
  • 主演:マチュー・アマルリック/エマニュエル・ドゥヴォス/マリアンヌ・ドニクール


 冒頭では陽光の軽やかさとパリを流れる暗く沈んだ川の重苦しさが鋭く対比させて示される。
 ロメール的世界から一気にフリッツ・ラング的世界に移行する。

 それは生と死と言い換えてもいいかもしれない。

 主人公のポールは生と死を繋ぐ存在だ。ポールを取り巻く時間は時に軽やかに時に重苦しく流れる。

 ポールは生に向きながら死を忘れない。というか死を畏れることを知っている。その意味でポールは死に近い者だ。死に近い者は穢れている。ポールは社会から遠ざけられる。大人になるとは死を忘れ、死に蓋をすることかもしれない。

 ポールの昔親友だった人間はその意味で大人だ。
 大切なペットのチンパンジーが死んだとき彼は自分のチンパンジーに触れようともしない。彼はチンパンジーの死体の始末を全てポールに任せる。
 ポールが彼に握手を求めた時、彼はポールのチンパンジーの死体の始末した手は穢れていると握手を拒絶する。
 彼は死を遠ざける。社会は彼を受け入れ彼は出世する。
 そして彼はポールを軽蔑する。

 ポールの恋人エステルがポールは永遠の子供であり、もしポールが大人になったらポールは堕ちて腐ってしまうと言うとき、エステルは誰よりもポールを理解している。

 子供の時に書いた小説の中で自分の父親を「自分の影に怯える資産家」と表現した時、ポールはすでに生の無意味さを知っていた。
 ポールは生の無意味さに耐えながら生きてきた。いやポールが子供の時小説を書いたのは生の無意味さに耐えるためだったのだ。
 しかしポールは自分に才能が無いことを知っている。自分がけっして小説家になれないことを知っている。
 ポールは想像の世界に逃れることはできない。ポールは現実と向かい合わざるを得ない。

 もし人がポールという人間に感動するのならば、それは人がポールの中に生の無意味さに絶えず戦いを挑みその中から意味を掴みだしてこようとする勇気を感じているからに他ならない。
 その勇気はポールだけでなくこの映画の登場人物が全員持っている。彼らは常に戦い挫折し傷つきそれでも戦う。映画が進むにつれ彼らが愛しくてたまらなくなる。

 この映画は日常生活の背後にある虚無をしっかりと見据えながらも、生への励ましに満ちている。

 僕はエステルに一番惹かれた。
 エステルのこんな言葉は僕が聞いた一番美しい愛の言葉の一つだ。

 「あなたの不在は私の魂にもたれ眠る」

1997/03/18