- 1989年ソ連映画
- 監督:ヴィターリー・カネフスキー
- 撮影:ウラディミール・プリリャコフ
- 主演:パーヴェル・ナザーロフ/ディナーラ・ドルカーロワ
ロシア(ソ連)の映画監督ヴィターリー・カネフスキーの作品です。
第2次世界大戦直後の、極東の街スーチャンで生きる少年を捉えた宝石のような輝きを持った作品です。
映画は、カネフスキー監督の「用意、スタート」という声と共に始まります。
炭坑の暗いトンネルから、地上に出てくる人達。そのシーンはすぐに、歓声を上げて跳びはねる子供たちのシーンに移ります。
この冒頭が、この作品全体の象徴になっているようです。端的に言えば、死と生です。しかし、この作品は、死の影の方が濃いようです。
- 生まれたばかりなのに、老婆にたらいの中の水につけられて殺される小猫。
- スリを残忍に殴る大人たち。
- 再会を心から喜び合う、戦争で、片腕を失った男と片足を失った男。
- 夜空を背景に、木に吊られて燃やされている日本兵の死体。
- 鍵穴から見える愛人と抱き合う母。
- 銃殺された、裸の少女の死体写真。
- 小麦粉を泥と混ぜて食べる、「収容所」で、正気を失った学者。
- 収容所から脱出しようと必死に助けを求める少女。
少年は、これらのものを、静かに見つめるだけです。
収容所から脱出しようと「私を列車に引っ張り上げて」と少年に向かって必死に叫ぶ少女をも、ただ見つめるだけです。故郷のスーチャンを出て、不良仲間に入り、宝石泥棒をしたときも、そうです。少年は、犬のようにたやすく殺された人間を、顔に付いた血を拭いながら、ただ見つめます。
そんな少年が、見つめるのを止めるのは、親友であり、いつも窮地を救ってくれる守護天使でもある、少女が射殺されるときです。少年は、叫びます。
少女が射殺される直前、少年と少女は、線路を歩いています。少年は少女に歌を歌って聴かせます。その歌は、恋人にもはや愛されていないと思い込んで、愛機と共に地表に激突したパイロットと、そのパイロットを追って、パラシュート無しで空に飛び込んだ恋人の歌です。
少女は、「もっと聴かせて」と少年にねだります。驚いて、少女を見つめる少年。そこには、親友ではなく、恋人がいます。それは、少年の成長を意味するのでしょう。
成長した少年は、見つめる代わりに、叫びます。
でも、その成長は、あまりにも、悲しいものでした。
1995/03/18