- 1991年ロシア映画
- 監督:ヴィターリー・カネフスキー
- 撮影:Vladimir Brylyakov
- 主演:パーベル・ナザーロフ/ディナーラ・ドルカーロワ
監督のヴィターリー・カネフスキーは、ロシア人で、1990年、54歳の時、カンヌ映画祭において、「動くな、死ね、甦れ!」で、最優秀新人監督賞を受賞しています。
この作品は、受賞から、1年後の作品です。この作品も、カンヌ映画祭で受賞しています(審査委員賞)。
少年が、「科学的に言えば、生まれてきた奴は、何百万の一の幸運な奴なんだけど、僕にはそうは思えない。運のない、バカさ」と言う時、ライナー・マリア・リルケの「マルテの手記」の冒頭の文章が、甦りました。
「人々は生きるためにこの都会へ集まって来るのだが、僕には、それがここで死ぬためのように考えられる」。パリで、リルケは、地獄を見ますが、少年は、生の中に地獄を見るのです。
- 生きながら、ナイフを体中深く刺し込まれ、体を切り裂かれる豚。
- 少年を丸裸にし、少女を犯す校長。
- 海のような、陰気で陰惨なアムル河に向かって、海の憧れを歌う捕虜になった日本兵。
- 血まみれの出産。
- 傷付き、飛び立ったと思ったらすぐに、アムル河に落ちて死ぬ、鳥。
- 少年を快楽の対象にする、母親ほど年の離れた女。
- 大きなトランクの中に、閉じ込められて、夫に捨てられた女。
- 酔って、泥水の中に横たわる男。
- 犬を盗み、解体し、その肉を売る男たち。
- 心痛の余り、アムル河に落ちる少女。
- ガソリンを掛けられ、火だるまになって、駆け回るネズミ。
ネズミを助けようと、必死になる少年は、ネズミを火だるまにして逃げ出した男に向かって叫びます。
「どうして、自分がしたことを最後まで見届けない」
少年が出会った女は、こう言います。
「私たちは、与えられた心を充分に使っていない。だから、人間らしさを失うのだ」
最後に、少年は、カメラを睨み付けて叫びます。
「お前たちは、僕を憎んでいる。僕を殺そうとしている」
そうだ、僕たちは、少年を憎む。
少年は、僕たちの持つ残酷さを暴き立ててしまうからだ。
この作品を見終わった後の、渋谷の空には、雨の後の爽やかな青空が、広がっていました。
その爽やかさは、この作品が与えてくれた、感動の中にあった爽やかさと同じものでした。
1995/05/13