2016/03/02

青春神話


  • 1995年台湾映画
  • 監督:ツァイ・ミンリャン
  • 撮影:Liao Pen-jung
  • 主演:リー・カンション/チェン・チャオロN/ワン・ユイウェン


 台湾映画です。台湾映画というと、僕が、まっさきに思い浮かべるのは、ホウ・シャオシエンですが、若手で、他にもこんなに素敵な監督がいたんですね。シャオシエンが、第1世代の監督とするならば、この作品のツァイ・ミンリャンは、第2世代の監督です。
 淡々と映像を重ねていくところに、2人の共通点を感じました。ミンリャン監督は、TV出身で、この作品が、映画デビュー作です。

 今日が初日ということで、ミンリャン監督の舞台挨拶がありました。自分の映画は、他の映画とは、違う。自分の映画は、詩だ。観客のみなさんに、映画を見てなにかを感じ取ってもらうことによって、初めて完成する。そう、ミンリャン監督は、優しい口調で語ってくれました。

 水とトイレのイメージが意識的に使われていました。

 映画は、降り頻る雨の中の、電話ボックスの内部の映像から始まります。夜の電話ボックスのガラスの外では、雨が降り、通過ぎる車のヘッドライトが、ガラスを明らめる。その最初のイメージで僕は、たちまちこの映画に引き込まれました。
 床が水浸しになっている、アパート。必ず、4階で止まるエレベータ。TVに映しだされる、セックス。コンピュータ・ゲーム。街を疾走するバイク。壊されるバイク。暴力。盗み。コンパスの針で串刺しにながらも、生き続けるゴキブリ。ジェームズ・ディーン。割れるガラス窓。傷つき、血を流す手。テレホンクラブ。鳴り続ける電話。電話を見つめる青年。街に飛びだす青年。工事中の道路標識が赤く光る、街の上空には、暗く重たい雲が覆い被さっている。そして、映画は終わる。

 映画が終わっても、なにも解決されていない。ミンリャン監督は、物語を語ったのではない。台北の繁華街を彷徨する、4人の若者の現実を、放って寄越したのだ。僕たちは、その現実を受けとめ、投げ返さなければならない。しかし、どうやって。

 「ここから出よう。」。「どこへ?」。「僕にも分からない」。

 暗さの中にしか、本当の明るさはない。そんな言葉を思い出させてくれる映画でした。

1995/06/10