2016/03/01

デッドマン


  • 1995年アメリカ映画
  • 監督:ジム・ジャームッシュ 音楽:ニール・ヤング
  • 主演:ジョニー・デップ/ゲーリー・ファーマー/ロバート・ミッチャム


 去年映画祭たけなわのカンヌで撮られた写真にニール・ヤングが写っていて、ニール・ヤングはカンヌに出かけるほどの映画ファンだったかなあと首を傾げていたら、この作品の音楽を担当していたのですね。

 ジョン・レノンが彼のギターはどんなに離れて聞いても彼のだと分かるよと言ったニール・ヤング独特の切なく心を掻きむしるようなギターは決して「LIKE A HURRICANE」におけるような激しさを見せることはなく、抑制されたものでした。作品自体もかなり生々しい暴力が描かれながらも静かな印象でした。

 なんの予備知識も無く見たので、タイトル・ロールでジョン・ハート、ガブリエル・バーン、ロバート・ミッチャムの名前を目にしたときはびっくりしました。特にロバート・ミッチャム。僕のフィリップ・マーロウのイメージは「さらば愛しき女よ」を演じたロバート・ミッチャムに一番近いのです。暴力の香りのするロックを聴かせてくれるイギー・ポップの名前があるのも音楽ファンには嬉しいことです。

 そして主人公の名前はウィリアム・ブレイク。大江健三郎が敬愛する英国の詩人と同じ名前です。ブレイクの詩は象徴と神秘に満ち満ちていますが、この作品も象徴と神秘の映画でした。

 映画は時々光の通り過ぎる汽車の中のシーンで始まります。汽車が作り出す単調なリズム。その中で時があくびを誘い出すゆっくりさで過ぎていきます。これは生の象徴かな。そして主人公は西部の果てにある町に辿り着きます。その町は死と危険に満ち満ちていて、ブレイクの「誕生」という詩を思い起こしました。「母は呻き父は泣き僕は危険に満ちた世界に飛び出した」。

 生は残酷さと悲惨と滑稽さとそれから美しさから成り立っていますが、その全てがこの作品にはありました。

 僕が好きなのはやっぱりあのシーンかな。森の中に首を射抜かれた子鹿の死体が横たわっている。主人公はその側に静かに身を横たえ、優しく目を閉じる。そこには同じく限られた生を持ち生の残酷さに曝された者への共感と深い同情がありました。そしてそれは美しいシーンでした。

1996/01/11