2016/03/02

反撥


  • 1965年イギリス映画 5/25ユーロスペース
  • 監督/脚本:ロマン・ポランスキー
  • 撮影:ギルバート・テイラー 音楽:チコ・ハミルトン
  • 出演:カトリーヌ・ドヌーブ/イボンヌ・フルノー/イアン・ヘンドリー


 画面一杯の目のクロース・アップから始まり、画面一杯に拡大された写真の目のクロース・アップで終わる。

 写真の中の少女からは世界に対する不安と拒絶が感じられる。その不安と拒絶を丹念に光と闇の中に写し取ったのがこの映画だと言えるだろう。

 いや、そう言っては正しくない。光と闇が作りだした、世界に対する不安と拒絶がリアルに存在すると言うべきだ。

 暗闇に沈む天井に映ったかすかに揺れる光。そこから感じ取ることのできる不安はとてもありありとしている。不安がリアルに存在する。その不安はもはや不安という言葉では捉えることのできないものだ。光と闇だけが捉えることのできるものだ。

 ロマン・ポランスキーは不安と拒絶というテーマで光と闇という二つの音を使いメロディーを奏でている。そのメロディーに耳を傾ければいい。

 そのメロディーに聴き入るとき、世界はその生の姿を露にする。絨毯に落ちたビスケットの欠片。それは日常生活のありきたりの物としてでなく、まさに物として観るものに迫ってくる。そこでは物は親しげには存在しない。僕たちを脅かすものとして存在する。

 恐ろしいのは殺人や死体ではない。カメラが捉えていく一つ一つの物たちだ。
 この映画が提示しているものを狂気だと言うならば、それはこの映画を観そこなっている。狂気が問題なのではない。狂気をもたらすものが問題なのだ。

 世界は飼い慣らされていると僕たちは信じているが、それは間違っている。世界は常に僕たちを脅かしている。僕たちは目を背けているだけなのだ。

 目から始まり目で終わる。主人公は目を背けることができない人間なのだ。だから狂気に陥る。

 目を背けることのできない人間と目を背ける人間。二人の人間の間の距離は僕たちが想像している程遠くはない。

1998/05/25