- 1995年アイスランド映画
- 監督:フリドリック・トール・フリドリクソン
- 撮影:アリ・クリスティンソン
- 主演:永瀬正敏/リリ・テイラー/鈴木清順
僕は昔スキーに熱中したことがあって、シーズン中は1週間のうち2日か3日はゲレンデにいました。だから、氷と雪と寒さは身体が知り尽くしています。
そんな僕にはこの作品の映像が見せてくれる氷と雪と寒さはリアルに迫ってきました。それだけでも、嬉しくなりました。
主人公の青年はサラリーマンで、夜はテレビを見て時間を潰し、昼間はまじめに仕事をし、夜は上司に飲みに連れられ義理でカラオケを歌う、平凡な自分を見失った人々の1人です。
そんな青年がアイスランドにある両親が不慮の事故で亡くなった川を訪れる道行きの中で、自分を取り戻すまでを描いた作品だと言えるでしょう。
青年は最初なかば無理矢理に温泉に連れていかれます。
そこで案内の男は、身を清めないとこの温泉には入れないと説明します。それは俗世間から、氷と炎の不思議の国へ入る為の儀式でもあるでしょう。青年は身を清めこそしませんが、この温泉を訪れることによって不思議の国へ入る儀式を済ませるのです。
不思議な国へ入った青年が最初に出会うのは生まれたものを祝福する儀式です。そして青年は生の世界と死の世界を結ぶ巫女的女性に出会います。彼女は「ブリキの太鼓」のオスカルのように口から発する超音波でものを破壊する不思議な力を持っています。次に青年が出会うのは、当然ながら死んでいったものを弔う儀式、つまり葬式です。
ここまできて、僕たちはこの作品が生と死、生そのものをテーマにした作品であることに気付きます。
青年が途中で出会った女性は、人は死者を弔うことによって初めて、深い悲しみを知ることができると言います。深い悲しみを知るということは、生を知るということでしょう。
青年は生を知り、僕は幸福な気持になったのでした。
リリ・テイラーは「魚の飛ぶ日」に続いて、エキセントリックな役を演じていました。
1995/11/09