2016/03/12

陽気な踊子


  • 1928年アメリカ映画 11/4NFC
  • 監督:フランク・キャプラ 脚本:エルマー・ハリス
  • 撮影:フィリップ・タヌーラ ピアノ伴奏:ロバート・イズレイル
  • 出演:ベッシー・ラブ/ジョニー・ウォーカー/ライオネル・ベルモア


 失われた思われていたサイレント時代のフランク・キャプラの映画だ。

 フランスで発見され、それがデジタル復元され今回のNFCでの上映になった。
 
 復元方法は発見されたポジフィルムをネガフィルムにして、それをスキャンしてデジタル・データに変換し、スクラッチ傷やノイズ、埃、損傷箇所をコンピュータ・ソフトを使用して復元するという方法が取られたと上映前に修復責任者のマイケル・フレンド氏から説明があった。
 技術面の興味としては復元されたデジタル・データを再びアナログ・データとして光学的にフィルムに焼き付けた方法に興味が惹かれるが、詳しい説明はなかった。機会があったら調べてみたい。
 上映前には復元方法の説明と同時に実例として、修復前の映像と修復後の映像がスクリーンに映しだされた。本当に損傷の酷い部分があって、それは似たシーンから映像を持ってきて当て込んだらしい。修復後の映像は今撮られたフィルムのように美しく、このデジタル復元技術を使って、サイレント期の貴重な映画が再生され、僕たちを楽しませてくれればいいと思った。

 ベッシー・ラヴがとても魅力的だ。フランク・キャプラは「或る夜の出来事」のクローデット・コルベールを観ても分かるように、女性を魅力的に撮る。フランク・キャプラは心から女性を愛している人だなあと改めて思った。

 そして映画が始まると映画そのものに引き込まれた。

 誰でも気付くのはフランク・キャプラの都会に対する嫌悪感だろう。その都会に対する嫌悪感は田舎に対する憧れとなって、映画の前半を輝かせている。

 左手はピアノの鍵盤の上に置き、右手はトランペットを持つ巡業芝居一団の楽士のおじさんのなんとチャーミングなこと!このおじさんは場内の軽食売りも兼任していて、場内を回りながら山場になるとトランペットを取り出して高らかに吹く。
 なんといっても惹かれるのはテント小屋に集まった人々の表情だ。みんな夢中になって舞台に魅入っている。ぼくは顔を傾けながら無表情に口の中にポップコーンを詰め込むやせたおじさんが気に入った。そのおじさんのショットからは芝居に引き込まれてしまった人間の興奮がダイレクトに伝わってきた。それはとても楽しいものだった。僕もそんなふうに映画を楽しみたい。そう思った。

 ベッシー・ラヴが魅力的だと書いたが、それは後年のハリウッド映画でのように男性に従属する存在としての女性の魅力ではない。

 ベッシー・ラヴはポスター貼りから主演女優までをこなす人間として生き生きと生きている。ブロードウェイで笑い者にされぼろぼろになっても、自分の力で立ち直る。けっして恋人の男性の力を借りて立ち直るのではない。

 ラスト・シーンはベッシー・ラヴの脚を捉えたショットで終わるが、粋なショットでキャプラのセンスを感じ嬉しくなった。

1997/11/04