2016/03/13

アンダーグラウンド


  • 1995年フランス/ドイツ/ハンガリー映画
  • 監督:エミール・クストリッツァ
  • 撮影:ヴィルコ・フィラチ 音楽:ゴラン・ブレゴヴィッチ
  • 主演:ミキ・マノイロビッチ/ラザル・リストフスキー/ミリャナ・ヤコビッチ


 渋谷シネマライズの新館で上映されました。

 スペイン坂を上りきったところにシネマライズはあるのですが、昔はクイーン・エリザベスとかいうラブホテルだったそうです。
 渋谷を少し歩くとびっくりするくらいひっそりした静かな空間に出ることがありますが、あの辺りも昔はそうだったのでしょう。
 賑やかなところになり、ラブホテルは映画館に変わったのでした。

 この映画を観て、そんな歴史を持つ映画館で上映されたのはこの映画にとってとても幸福なことだったんじゃないかと思いました。

 テオ・アンゲロプロスは「旅芸人の記録」で厳粛とも言っていいほど静謐で美しい映像で祖国ギリシャの現代史を描いてみせましたが、エミール・クストリッツァは猥雑で騒がしい映像で祖国旧ユーゴスラヴィアの現代史を描いています。

 音楽を担当しているのは、同じくユーゴスラヴィア出身のゴラン・ブレゴヴィッチです。
 彼は「ユーゴの音楽は様々なパーツからできているフランケンシュタインのようなものなんだ」と語っていますが、そんな音楽を奏でるジプシー・バンドの音楽が多民族から成り民族紛争を起こしているユーゴの現実を踏まえたこの映画にピッタリでした。

 クスリッツァもブレゴヴィッチも母親がセルビア人で、父親はクロアチア人です。そんなことを知ったうえで、この映画を観ればまた印象も違って来るのではないでしょうか。

 クロが「俺はどの部隊にも属さない、俺が属するのは俺の部隊だ。俺には上官はいない。俺は祖国のために戦っているのだ」と言うシーンがありましたが僕はそこにクスリッツァのメッセージを感じました。

 娯楽作品としても一級品だと思います。黒猫を使って靴を磨くところとか思わず笑ってしまうところもたくさんあります。

 親友と恋人の身体が炎に焼かれて走り回っているのを見てクロが石の柱に自分の頭を打ちつけるシーンはまるでギリシャ悲劇を観るようでした。

1996/04/26