2016/03/01

暗殺の森


  • 1970年イタリア・フランス・ドイツ合作映画
  • 監督/脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
  • 撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
  • 主演:ジャン=ルイ・トランティニャン/ドミニク・サンダ/ステファニア・サンドレッリ


 冒頭。パリのホテルの一室。赤い光。それは映画館のネオンサインの光なのだ。映画はジャン・ルノワールの「人生はわれらのもの」1936。ルイ・アラゴンの依頼に応じてルンワールが撮ったフランス共産党のプロパガンダ映画。スミレの花を売る若い女性はインターナショナルの歌を歌う。

 1930年代、ファシズムが台頭してきたイタリアを背景に映画はローマとパリで展開する。
 しかし冒頭から映像の美しさに心を奪われストーリーはどうでもよくなってしまう。冒頭の暖色系の色を中心とした映像は寒色系の色を中心とした映像に変わる。寒色系の色を中心とした映像はカタストロフィへひたすらに走る映像だ。暖色系の色を中心とした映像はカタストロフィへ走る映像に意味を与えカタストロフィへ走る映像を豊かなものに、それ故に残酷なものにする。カタストロフィへ走る映像はガラスという壁を通して見つめ合う動物的な恐怖に捕らわれた女と普通の人間になりたいという奇妙でそれだけに激しい情熱に捕らわれた男の映像へと辿り着く。

 その映像へ辿り着く直前の映像の美しさはなんと表現したらいいだろうか。
 冬の林道。道に停る三台の車。木漏れ日。林を渡る風。それらがあらゆる角度からクロース、ミドル、ロングの組合わせで撮られる。それらのショットは見事に統一されこの美しすぎると言ってもいい映画の美的頂点を作る。まさに光の魔術。そしてこの美的頂点を至上のものにするのは風に軋む木の音だ。

 このある事件によって自分を人とは違う人間だと思い込んでしまった普通の人間の悲劇を観終わった後心に残るのは個々の映像だ。

 ホテルの室内を撮るときのクレーン・ショット。見るものと見られるものの間にある膨大な距離が一気に引くカメラによって一瞬の内に示されるときのスリル。シャロウ・フォーカスによってくっきりと浮かび上がってくる映像。画面の奥へと進む人物を画面の手前へと移動するカメラで捉えた逆説的なショット。主人公がファシズムを象徴する人物と出会うときのロール・ショット。ブラインドによって作られたストライプ状の光。風に舞い上がる落ち葉を捉える地面の高さにセットされたカメラ。光によって消される壁の上の影。列車の窓のスクリーンプロセスの景色。その景色が暖色系から寒色系に変わるときの官能。会話する二人の人間を横から撮影するカメラはパンによってではなく移動によって一方の人間からもう一方の人間に移る。その時の新鮮な驚き。看板の絵をそんまま実際の景色に繋げる機智・・・。

 こうやって挙げていくと切りが無い。

 チラシに「フィルムの能力を限界点まで引きだした」と書いてある。まさにそのような映画だった。

1997/01/03