2016/02/26

O侯爵夫人


  • 1975年フランス映画
  • 監督:エリック・ロメール
  • 撮影:Néstor Almendros
  • 主演:エディット・クレバー/ブルーノ・ガンツ/エリック・ロメール


 なんの予備知識もないまま観に行ったので、題字がドイツ語であることに驚き、ドイツ語の会話から始まることにも驚きました。ドイツ語の会話は最初だけかなと思っていたら結局全編ドイツ語なのでした。ふむふむ原作はドイツロマン派の人なのか。明確に響くドイツ語が簡潔にそして的確に語られていく物語にぴったりでした。

 演劇的だなあというのが第一印象でした。場面と場面は溶暗によって切り替わりますが、これは演劇の幕を思わせます。西洋の劇場は奥行きが深く作ってあり、横の動きでなく前後の動きが効果的に使われますが、この作品でも登場人物は画面の奥から現われ画面の奥に消えます。

 演劇的空間と決定的に違うのは光です。全編に陽光が溢れています。白いカーテン越しの和らげられた陽光。僕はこの陽光に魅せられました。そして色は白が印象的でした。白は侯爵夫人の貞淑を象徴しているかのようでした。
 陽光と白の世界で侯爵夫人の母親が着る臙脂色のドレスがはっとする程の美しさを見せていました。このへんの色彩に対するロメールのセンスは本当に好きです。

 僕が一番好きなのは、ゆったりした白の衣服に身を包んだ侯爵夫人が緑に覆われた庭園で柔らかな陽光を浴びながら読書をしているシーンです。そこには至福がありました。

 最後は人を食ったような結末で、いかにもロメールらしいなあと思いました。エロスと道徳。その2つは決して対立するものではなく、道徳があるからこそエロスは豊かで味わい深いものになる。そんなことをこれほど見事に表現した作品はちょっとないのではないでしょうか。
 でもそんなことよりも自然の光こそがこの作品のテーマだと感じたのでした。

1996/02/28