2016/02/27

不敵な男


  • 1958年大映東京
  • 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
  • 主演:川口浩/野添ひとみ/船越英二


 いま東京国立フィルムセンターでは、昭和30年代に従来にない「明るく若々しい日本人像」をスクリーンに描いた大映の増村保造監督と日活の中平康監督の作品を上映中です。

 この作品は1958年(昭和33年)の増村作品です。舞台は新宿です。例えば西銀座だったらこの時期撮られたものを見てもすぐに分かるのですが、新宿は分かりません。それだけ新宿がダイナミックに変わってきたということでしょう。そんなエネルギーに満ちた街が売春法の成立で激動する時期を背景にしています。

 主人公は川口浩演じるチンピラです。この頃の川口はまさに青春そのものの。匂い立つような若者です。川口は新宿駅で田舎から上京してきた野添ひとみを騙しレイプし売春婦として売り飛ばそうとしますが、刑事の船越英二に捕まってしまいます。
 裁判の過程で川口も田舎育ちで、母親に早く死なれ、父親はそのショックで生きる気力を失ったことが明かになります。野添の両親はとうに死んでしまっていて、野添の食べ分を誰も支えることができなくなって野添は上京し仕事を求めたことも明かになります。似たもの同士の2人。そんな2人はレイプという形でしか出会うことができなかったのです。

 刑務所から出所する川口。新宿では野添が売春婦になっている。ベットに誘う野添。ベットから転がり落ちる川口。野添の手にはナイフ。「あんたが出てくるのを1年間じっと待っていたのさ」。苦痛にのたうち回る川口を冷たい目で眺め、唾を吐きかけて去る野添。憎悪の形を取った愛。

 警察に追われ獣のように新宿の街を逃げ回る川口。川口は野添の目を見たいとだけ思いつめている。「あいつは最後まで俺のことを冷たい目で見るのだろうか」。路地に追い詰められサーチライトに照らし出される川口。銃弾が川口を襲う。川口は2階の野添の目だけを見ている。野添の目はもはや冷たくはない。野添の目からは涙が溢れだす。地面に倒れる川口。川口の顔には安らぎがある。

 激しくもせつない純愛映画でした。

1996/02/27