2016/02/27

くちづけ


  • 1957年大映東京
  • 監督:増村保造
  • 主演:川口浩/野添ひとみ/三益愛子


 東京国立フィルムセンター「1950年代の青空(増村保造)と太陽(中平康)」特集です。

 1957年の大映作品です。チラシでは原作が川口松太郎になっていますが、これは源氏鶏太の間違いです。「オール読物」に掲載された小説です。

 この作品はイタリア留学から戻った増村の監督第1回作品です。タイトルロールでは張り出した木の枝に被われた空を、並木道を移動するカメラが捉えます。爽やかなショットでしたが、この作品全般に渡って地中海の明るい光と海の香りが満ちています。

 川口浩は青春そのもので魅力的ですが、それよりも野添ひとみの好演がきらりと光ります。川口の宝石ブローカーをやっている母親役を演じる三益愛子がきびきびしていて色っぽく素敵です。

 小菅にある留置所で知り合う男と女。男の父親は選挙違反で捕まっている。母親は離婚して家を出ている。女の父親は役人で公金を使い込んで捕まっている。母親は結核で入院している。男は半分ぐれている。女は1人で両親の面倒を見なければならないので突っ張っている。

 撮りようによっては陰々滅滅の映画になりそうなのに、増村の爽快とも言えるスピーディーなシーンの切換はこの作品を地中海の空気のように乾いたものにしています。

 工事現場の板の階段を人夫が降りてくるときの光と影の動きははっとするような美しさでした。最近本当に美しい画面はカラー映画ではなく白黒映画にあるんじゃないかなと思っています。

1996/03/21