2016/02/22

ユリシーズの瞳


  • 1995年ギリシャ映画
  • 監督:テオ・アンゲロプロス
  • 主演:ハーヴェイ・カイテル/マヤ・モルゲンステルン/エルランド・ヨセフソン


 ユリシーズはオデュッセウスの英語圏での名前ですね。ホメロスの「オデュッセイア」ではオデュッセウスは10年に渡るトロイア戦争の終結後帰郷しようとしますが途中嵐に襲われさらに10年間漂流します。

 僕はこの作品を観て、オデュセウスとナウシカアの出会いを思い起こしました。浜辺に流れ着いたオデュセウスは裸のまま光り輝く海を背景に若く美しいナウシカアを口説くのでした。

 この作品のオデュセウス、映画監督Aが巡るのはバルカン半島です。バルカン半島にはブルガリア・ユーゴスラヴィア・アルバニア・ギリシアおよびトルコの一部にルーマニアがありますね。Aを演じるハーヴェイ・カイテルの母親はルーマニア系だそうで、そのことを知ってAがルーマニアで母親と踊る幻想的シーンを観ると感慨深いものがあります。

 暗い道路の奥でゆっくりと動く多数の光。画面の手前から機動隊が登場する。機動隊は画面の中央まで進む。機動隊の後ろには傘を持った人々が集まる。黒い傘が画面の下半分を覆う。光が機動隊に向かって動く。人々は手に持ったロウソクを捨て、静かにしかし決然と機動隊に突入する。

 冒頭のこのシーンから圧倒されます。

 最後のサラエボを舞台にした場面では映画博物館にイングマール・ベルイマンの「ペルソナ」のフィルムが置いてありました。「ペルソナ」は人間の中にある感情的、心理的、道徳的な葛藤を探求した作品ですが、それはこの作品のテーマとも響きあうように感じました。

 無差別攻撃で崩れた試写室のスクリーンに踊る白い光。そして映写機の音。僕は座席の中で言葉を失っていました。

1996/03/23