- 1972年フランス映画
- 監督:エリック・ロメール
- 撮影:Néstor Almendros
- 主演:ベルナール・ヴェルレ/フランソワーズ・ヴェルレ/ズー・ズー
教訓的物語シリーズの第6話で完結篇。このシリーズは「モンソーのパン屋の娘」1962から始まっています。「モンソーのパン屋の娘」は映画は見ていませんが、ロメールの短編小説を読んだことがあります。男の子が主人公で、恋人がいない間に、パン屋で働いている女の子をデートに誘うが結局行かなかったという話だったと思います。男の子は利己的であると同時に愛に誠実であろうとしていて、そこが魅力的でかわいらしかったと記憶しています。
この作品の主人公もあの男の子と同じかな。パリを歩く魅力的な女たちみんなと寝てみたいと夢想すると同時にデートのために妻に嘘を吐くことに罪悪感を感じる。フランス的だなあと感じるのは愛人への愛と妻への愛を、肉体的愛と精神的愛というふうに対立させないところです。ここでは両者とも肉体的愛として描かれています。
主人公のフレデリックに迫るクロエがまるで恋愛の教科書のようです。攻撃すべきときには徹底的に攻撃し、引くべきときには引き、また相手の目の前から消えてじらせ嫉妬させる。最初はぼさっとした髪にセーターにジーンズという姿で現われますが、引いてからまた現われるときはすっきりとカットした髪にシックな服で現われます。これじゃフレデリックならずともクロエに惹かれてしまいます。フレデリックを嫉妬させた後では、明るいブルーのカットが素敵なパンタロンスーツ姿で現われ、フレデリックの心を宥めます。まさにクロエは恋愛の達人。
フレデリックが服の買い物をするシーンがあって、彼は自分の目の色と同じブルーのシャツが気に入って買います。妻はそのシャツをとても似合うわと誉めます。そのシャツをフレデリックはクロエの住んでいる部屋を訪れる時に着ていきます。自分の気に入ったシャツを着ていくということは、彼の心がクロエに強く傾いているというしるしです。同時に妻が誉めた服を着ていくということは、妻にも惹かれているということを表わしているでしょう。こんなふうな小物の使い方はロメールは本当にうまいと思います。
恋愛感情をリアルに追いながら、どこか可愛らしさを感じさせるというのはロメールの持ち味かな。
1996/02/10