2016/02/28

楢山節考


  • 1958年松竹
  • 監督/脚本:木下恵介 原作:深沢七郎
  • 撮影:楠田浩之
  • 主演:田中絹代/高橋貞二/望月優子


 松竹百年映画祭に行ってきました。
 今日の作品は、松竹シネマスコープ第1作「抱かれた花嫁」と木下恵介監督の「楢山節考」でした。
 「楢山節考」はぜひ見たいと思っていた作品です。

 「抱かれた花嫁」はラブ・コメディを基本にしたホーム・ドラマでした。雄大な時代劇が一番相応しいようなシネマスコープなのに、その第1作がこの作品とは、いかにもホーム・ドラマを得意とした松竹らしいなと思いました。大木実が見れたのが嬉しかったです。

 さて、「楢山節考」ですがこれは姥捨て伝説を基にしたものです。食料を充分に賄うことのできない山村では、もはや労働力のなくなった老人は口減らしのために、山に捨てられたという伝説です。

 黒子の口上があって、幕が上がります。そうすると、芝居の書き割の山を背景にして男が野道を急いでいます。そこに浄瑠璃の「信濃路は山また山・・・」という語りが被さってきます。物語は終始芝居の舞台のようなセットの中で進んでいきます。そして、バックには終始浄瑠璃の語りが入ります。それらがかえって、物語に不思議なリアリティーを与えていました。

 いろんな見方をすることができると思いますが、僕は「死」をテーマにした作品だと思いました。1つ屋根の下に、69歳の老婆と45歳の主、20歳前後の長男、その他の家族が住んでいます。老婆は死を強く意識し、若い長男は命を輝かせていて、死を感じさせる老婆を憎んでいます。もはや若くなく中年の主は、死を意識し始めていて、老婆の気持がよく分かり、老婆を庇います。主が泣く泣く山に老婆を捨てに行った後、戻って家の中を覗くと、長男夫婦が楽しそうに歌遊びをしているのは、象徴的なシーンでした。

 クライマックスは、老婆を山に捨てるための、主と老婆の道行きです。その道行きで、老婆役の田中絹代は、一言も台詞を発しません。それがこの道行きに高いテンションを与えていました。

 誰もが歳をとり、やがて死んでいく。当たり前のことですが、日常生活の中では忘れられているこの事実を、これほど残酷に美しく描いた作品はちょっとないのではないでしょうか。

1995/10/24