2016/02/28

なつかしき笛や太鼓


  • 1967年東宝映画 9/6NFC
  • 監督/脚本:木下恵介
  • 撮影:楠田浩之 美術:松山崇
  • 出演:夏木陽介/大空真弓/浦辺粂子


 この映画を単独で論じるならば、ほとんど内容空疎な映画だ。取り上げるべきところがあるとしたら、終盤のバレー・ボールの試合だろう。草バレー・ボールよりはほんの少しだけレヴェルの高い試合が延々と映し出される。シュールリアリスティックと名付けてもいいくらいで、このようなシーンを持つ映画はけっして大げさでなく、古今東西唯一だろう。

 それでも小島の中学のチームが勝利を収めるとき、館内からは観客の拍手の音が聞こえてきた。この映画は内容空疎でありながら、観る者を引き込む「マジック」を持っているのだ。それを木下恵介監督の話術の巧みさだとするならば簡単なのだが、その「話術の巧みさ」は分析されなければならない。分析することによって見えてくるものがある。

 一本気なヒーローと気が強いがヒーローを心から愛しているヒロイン。ヒーローには試練が与えられる。活気を失っている人々に元気を与え、生きる強さを取り戻させること。その試練はけっして抽象的な形で与えられない。バレー・ボールの試合で勝つという具体的な形で与えられる。そしてその「具体的な」試練に様々な難題が降りかかってくるのだ。ヒーローがそれらの難題を乗り切っていく有様が観る者を引っ張っていく。

 そんなふうに分析していくとき、この映画が物語の型に忠実に従っていることが分かる。そしてこの物語の型は遥か昔人間が言葉を使うようになってから使われてきている。
 ここにはなんの発見もない。熟練した「話術」があるだけだ。たぶんこのような映画の存在を僕たちは認めてはならないのだろう。

2000/09/06