2016/02/27

日本侠客伝 花と龍


  • 1969年東映京都撮影所
  • 監督:マキノ雅広
  • 主演:高倉健/星由里子/二谷英明


 先週、東京国立フィルムセンターで見た、同じ日本侠客伝シリーズの「血斗神田祭り」の余りの面白さにびっくりし、今週も見てしまいました。
 こんなに映画が面白くていいのだろうかと、またまた楽しませてくれました。娯楽映画の最高峰ではないでしょうか。

 監督のマキノ雅広について紹介しておきましょう。
 日本映画の開拓者というべき牧野省三の息子です。俳優として出発しました。すらりとした美少年役でした。戦後、東宝のドル箱監督となりましたが、松竹に移り、そこで、組合活動を行ない、松竹を去っています。弟が、東横映画(後の東映)を興したときは、弟のために不眠不休で映画を撮りました。その東横映画が経営不振に陥ったときは、ノー・ギャラで、佐藤忠男を深く感動させた「酔いどれ八万騎」を撮っています。マキノ監督は、松竹を去ってからは、フリーでしたが、弟が、急死してからは、東映だけで、映画を撮っています。撮影した映画の本数は、藤純子の引退映画を最後にして、261本!です(以上は、「日本の映画監督」 キネマ旬報社による)。

 マキノ雅広の映画に出てくる人物は、人情に篤く、心が清流のようにきれいに澄んだ人間ですが、それは、そのまま、マキノ雅広監督その人にも当て嵌まることが、経歴から分かります。

***以下、ネタばれあり***

 ’69年の東映作品です。出演者は、高倉健、星由里子(東宝)、二谷英明(日活)、津川雅彦、そして、藤純子です。
 藤純子が、色っぽいというか、妖艶です。片肌を脱いで、高倉健への想いを表わした、花の入れ墨を見せたときには、色気が溢れ落ちたのでした。
 男女の恋の描き方がとてもロマンチィックでした。
 傷付き、伏せる高倉健の部屋に菊の花を一輪飾る、星由里子。その菊の花をじっと見つめる高倉健。藤純子から、龍の入れ墨を彫らせて欲しいと頼まれたとき、その龍には、菊の花を銜えさせて欲しいと言う、高倉健。そこまで惚れていながら、星由里子に好きだとは決して言わない高倉健。死にに行く、高倉健に、晴れ着を着せ、その仕付け糸を、そっと抜く星由里子。最後に、星由里子に笑顔が見たいと言う高倉健。

 マキノ雅広監督が、東映時代の11年間で打ち立てた美学は、とても美しいものです。
 佐藤忠男氏は、「酔いどれ八万騎」を評して、虐げられた者の、悲しい意地、プライド、自虐的ユーモア、それらは、東映映画の最良の部分ではなかったかと書いていましたが(「日本映画史2」 岩波書店)、僕は、混ざり気のない純粋な心を、描いたところに、マキノ雅広監督の価値があると感じました。

1995/06/24