- 1990年イラン映画
- 監督:アッバス・キアロスタミ
- 主演:ホセイン・サブジアン/モフセン・マフマルバフ/ハッサン・ファラズマンド
「友だちのうちはどこ?」は、日本でも、多くのファンを掴んだ、アッバス・キアロスタミの90年の作品です。キアロスタミは、この作品を、自作の中でも、とりわけ気に入っているそうです。
ある青年が、自分を、映画監督だと騙った、実際に起こった、詐欺事件を、題材にした作品です。映画は、再現シーンと、ドキュメンタリーから成り、登場人物は、全員、実際に、事件に関わった人ばかりです。
裁判のドキュメンタリーがあることから分かるように、この作品は、事件と同時進行で撮影されています。
***以下、ネタばれあり***
最後に、青年に欺かれた、一家の主人が、青年に向かって、「君に出会えたことを、誇りに思う」と言い、青年は、赤い花を持ったまま、静かに微笑み、この映画は、終わります。
青年は、初めて会った、キアロスタミ監督に対して、「苦しみ」を表現して欲しいと言います。そして、裁判の過程で、マフマルバフ監督の「サイクリスト」に対する熱い思いを語ります。「その作品は、家族のために、日用品すら買ってやれない、貧しい、自分の「苦しみ」を表現してくれた。その作品には、生きるために、自尊心すら、売り払う、人間が登場する。その作品は、自分の苦しみを全て、語ってくれた。自分は、救われた」。そんなにも、「サイクリスト」に惚れ込んだ青年は、たまたま、バスで隣り合わせた婦人に、自分は、監督のマフマルバフだと語ってしまうのです。
青年が、釈放され、監督のマフマルバフに出会ったとき、青年は、泣き崩れます。監督は、泣くなよと慰めます。そして、最後のシーンが続きます。君に出会えたことを、誇りに思う。静かに、微笑む青年。
事実と虚構、フィクションとドキュメンタリー、嘘と真実、そんな問題を感じさせる前に、静かな感動を与えてくれる作品でした。
僕が、好きなシーンは、一家の主人が、既に、青年を、詐欺師と知りながらも、青年の話に惹き込まれていく、シーンです。そのシーンは、最後のシーンを予感させるものでした。
多分、僕の心の中に、残っていくのは、澄んだ音を立てて、坂道を転がっていく、緑色のスプレー缶でしょう。それは、現実と虚構の狭間で、輝いていました。
1995/07/30