2016/02/28

用心棒


  • 1961年東宝映画 6/10NFC
  • 監督:黒澤明 脚本:菊島隆三
  • 撮影:宮川一夫 美術:村木与四郎
  • 出演:三船敏郎/仲代達矢/司葉子


 娯楽に徹した映画であることを明記しておいて以下の文章を続けよう。

 世界はたぶん残酷で冷酷なところなのだ。それは人間が基本的には己の欲望に従って、或いは引きずり回されて生きる生き物だからだ。人間は己の欲望の充足を妨げるものは容赦なく傷つけ無き物にする。そのような世界にあって「優しさ」を持って生きる者はたちまち命を奪われるだろう。しかし「優しさ」を持った者にかこの世界は変えられない。それは「優しい」人間にしかこの世界が間違った世界であることが分からないからだ。

 「優しい」人間はこの世界は変えるべきだということを認識できるが、認識できるだけであって、世界を変えることはできない。なぜならば「優しい」人間は残酷で冷酷な世界に投げ込まれれば、たちまち命を奪われるからだ。「優しい」人間がこの世界で生き延びて、世界を変えることができるようになるためにはなにが必要だろうか?それはレイモンド・チャンドラーの言葉を借りるならば「タフさ」だ。タフで優しい人間こそがこの世界を変えることができる。ここにおいてこの映画の主人公である用心棒が登場する。この用心棒はまるでならず者のように見えるが、彼はこの世界で生きる人間たちの救世主なのだ。彼はならず者の外見の下に黄金の心を持っている。

 彼に僕たちが好感を持つのはこの救世主がけっしてきれい事を言わないからだ。彼はある意味では世界の残酷さ冷酷さを受け入れている。彼は高所に立つわけではけっしてない。彼は救う人間たちと同じ土俵に立ちながら、少しでも残酷さ冷酷さを無くそうとする。彼はたぶん自分の戦いが無意味だということを知っている。たとえ悪人たちを一掃しても、その後から新たな悪人がやってくる。世界とはそのような所なのだ。それでも彼は戦う。そこで僕たちは彼に共鳴し、彼に声援を送るのだ。

2000/06/10