2016/02/28

悪い奴ほどよく眠る


  • 1960年東宝映画 7/25NFC
  • 監督/脚本:黒澤明
  • 撮影:逢澤譲 美術:村木興四郎
  • 出演:三船敏郎/森雅之/香川京子


 この映画で際立っているのは、メッセージ性ではなく、そのダイナミックなドラマ性だ。この映画の構造はある意味でとても単純だ。正義感に燃える二人の青年と悪に染まった組織。個人対組織人と言い換えてもいい。その二人の青年は戦いを鮮やかに進めていくが、けっきょくは完膚なきまで叩きのめされる。それは改めて黒澤明という監督が登場しなくても、誰でもが分かっている「物語」なのだ。

 この映画が語ろうとしていることは全く重要でない。その語り方こそが重要なのだ。カメラのすぐ近くに登場人物を配置し、その向こうの奥に他の登場人物たちを配置する。手前から奥に向かって放射状にダイナミックな線が生まれ、その線がこの映画をドラマティックにする。そんな語り方が観る者をグイグイと引っ張っていく。

 破壊された車がまず提示され、その後に乱闘の跡が見せられる。そして最後に破壊された車がクロース・アップされ血だらけの運転シートが迫ってくる。ここにあるのは非常に熟練した語り方だ。乱闘シーンそのものは撮られていない。そのように直接的なものをカットする語りは気取った語りを好む監督がよくやる語りなのだが、そのような監督たちが知的洗練性を誇るためにそのような語りをするのに対し、黒澤明監督の語りはあくまでもドラマのダイナミズムに拘り、その結果の語りなのだ。そしてそのような動的な語りが僕たちをこの映画に強烈に惹き付ける。

 そして登場人物たちもまた動的なドラマに奉仕する。登場人物たちのキャラクターは掘り下げられているのではなく、動的なのだ。主人公は復讐に情熱をぎりぎりに燃やしているが、その炎こそ重要であり、この主人公の魂の在り方は極端に言えばどうでもいいのだ。留まるのではなく、動いていくキャラクター。

2000/07/25