2016/02/27

ざ・鬼太鼓


  • 1981年デン事務所
  • 監督:加藤泰
  • 主演:鬼太鼓座


 ユーロスペースの加藤泰特集の目玉とも言うべき「ざ・鬼太鼓座」を見てきました。

 冒頭の画面は、日本海の荒々しく厳しい逆巻く波でした。空気が、ピーンと張り詰められました。そして、雪の中を男は上半身裸、女はTシャツ1つになって走る若者達が映し出されます。若者達は、画面の奥から手前に向かって走ります。そして、カメラの位置は低い位置に設定されています。奥行きを使った画面構成と、低いカメラ位置は、加藤泰の一番大きな特色ですが、それらの技法が、この若者達の走る姿を見ていると、緊張感を生むためのものであることがよく分かります。このシーンから伝わってくるのは、若者達の張り詰めた生き方です。

 鬼太鼓を演奏するために、佐渡島に全国から集まった若者達のドキュメンタリーというよりは、鬼太鼓の演奏という緊迫した生き方をあえて選んだ若者達に接して加藤泰の心に浮かんだイメージを映像化した作品と言うことができるでしょう。加藤美学の集大成と言っても言い過ぎではないと思います。ハッと息を飲み込むほど美しいシーンがあります。加藤泰が捉える女性のうなじは、とても美しい。そして、太鼓を叩く若者を下から捉えたシーン。このシーンは、この映画のハイライトシーンでしょう。緊張感が、極限まで高められます。このシーンが終わると、ホッと溜息がでました。

 藤純子や高倉健の清冽で緊迫感溢れる生き方は、この映画の若者達の生き方でもあります。
 自分の生を極限まで高めて生きる生き方。いまの日本で一番忘れ去られている生き方だなあと感慨に耽りました。

1994/12/09