2016/02/29

地獄に堕ちた勇者ども


  • 1969年イタリア・スイス・西ドイツ合作映画
  • 監督:ルキノ・ヴィスコンティ
  • 主演:ダーク・ボガード/イングリッド・チューニン/ヘルムート・バーガー


 1933年のドイツから映画は始まる。そして1934年の湖畔での虐殺で映画は頂点を迎える。

 「勇者ども」とはレーム率いるナチ突撃隊のことだ。ヒットラーは湖畔で浮かれ騒ぐ「勇者ども」に軍隊を送り込み、彼らを悉く射殺した。レームはヒットラーに心酔していた。レームは射殺される瞬間にもヒットラーを疑っていなかった。ヒットラーにとってはその純粋さが危険だった。ドイツを掌握し欧州での覇権を狙うにはナチ突撃隊の子供のような純粋さは命とりになる可能性があった。だからヒットラーはヒットラーのためにならいつでも喜んで命を投げ出しただろうナチ突撃隊を殲滅させたのだった。ヒットラーは心痛で寝込みやつれたという。ヒットラーはレームを切ることによって正真正銘の化け物になった。

 だからこの映画の虐殺シーンは魔王誕生のシーンでもある。

 前夜の乱痴気騒ぎでガーター・ベルトを着けた半裸の青年がコテージから外に出る。青年は夜明けの湖の爽やかな空気を吸い込む。突然青年は動きを止め、耳を澄ます。遠くから聞えてくるトラックの音。こうして静かで統率の取れた軍隊が乱痴気騒ぎの疲れに微睡むナチ突撃隊を襲う。制服に身を固めた軍隊と半裸のナチ突撃隊員たち。銃弾が美しい肉体を突き破り血が噴き出す。青年たちの裸体に赤の模様がつく。その赤の模様は魔王の到来を予告する。

 あの頃のドイツではどんなことでも許された。エロチックで、みだらで、非道徳的あればあるほど歓迎された。そんなドイツを代表するのはマルレーネ・デートリッヒだ。この映画のもう一つの中心を成す青年は「嘆きの天使」でのデートリッヒの椅子に跨がったあの有名なポーズをそのまま真似て登場する。娼婦の格好をした青年が歌っているときベルリンで国会議事堂が炎上していることが告げられる。

 この青年はナチズムの背後にあるどんな闇よりも暗い闇を象徴する存在だろう。青年は母親を犯し毒殺する。

 青年の持つ闇が最も深まるのは、幼い少女が青年の顔中を大人の女性のように接吻するシーンでだ。静かな部屋の中で少女が接吻する音だけが響く・・・。
 少女は罪の意識に苦しめられ熱を出し寝込み首を吊る。天井からぶら下がる少女のむきだしの足。それは青年たちの裸体の赤の模様と同様に魔王の到来を予告する。

 そして魔王は来たり、映画は終わる。

1997/02/04