2016/02/29

エンド・オブ・バイオレンス


  • 1997年ドイツ映画 3/31恵比寿ガーデンシネマ
  • 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ニコラス・クライン
  • 撮影:パスカル・ラボー 音楽:ライ・クーダー
  • 出演:ビル・プルマン/アンディ・マクダウェル/ガブリエル・バーン


 スムーズにストーリーが流れていく。
 まるで上質の口当たりのいいお菓子を食べたようだ。少女が天体望遠鏡を操作するシーンが幻想のように挿入されている。映画はその幻想に吸収されスクリーンが明るくなった時、なにも痕跡を残さない。

 非在を目指して作られたような映画だ。テーマは暴力であるかのような見せかけを取りながら、テーマになっているのは映画なのだ。そして映画にについて語ることがもはや何の意味も持たないことを証明するかのように、映画はなんの引っ掛かりも残さない。最上級のクリームのように口の中で溶ける。
 ここではもはや語ることが放棄されていると言ってもいいかもしれない。語ることを放棄することでしか映画は語れない。

 天体望遠鏡を映画の隠喩だと考えてもいい。少女は天体望遠鏡が空を見るものであることを知っている。そして少女は天体望遠鏡を空に向ける。
 ラスト・シーン。少女は映画プロデューサーであった男に「空」という言葉を教える。男は空に顔を向ける。しかしそれはもう遅い。天体望遠鏡が空を見るものであることを知る少女は殺されるだろう。

 天体望遠鏡は何を見続けるのだろうか。その答えは映画にはない。
 赤い風船は少女の手から離れ、空に向かう。そこにはなにもない。後には何も残らない。

1998/03/31