- 1936年フランス映画
- 監督:ジャン・ルノワール
- 主演:ジャン・ダステ/ジャック・B・ブリュニウス
ベルナルド・ベルトルッチ監督「暗殺の森」の冒頭。
夜のパリのホテルの照明を消した一室。ベットの上で上半身を起こしたファシストをネオンが赤く染める。
そのネオンは映画館のもので、ネオンが示していたタイトルは「人生はわれらのもの」、つまりこの映画でした。
「人生はわれらのもの」はシュール・レアリスムから共産主義に転じた作家ルイ・アラゴンの依頼によってルノワールが撮ったフランス共産党のプロパガンダ映画です。
三部構成になっていて、第一部が不当に解雇された定年間際の工場労働者をフランス共産党の同志が救う話、第二部が借金を返せずに財産を差し押さえられた農民を同じく同志が救う話、第三部が大学を出たけれど職がなく遂には行き倒れになってしまう青年をこれまた同志が救う話となっています。
つまり完全なプロパガンダ映画です。なお第二部は主にジャック・ベッケルが監督したそうです。
僕はこの映画の導入部に惹かれました。
授業を受ける少年たちの生き生きとした表情、ヒットラーの演説を犬が吠える音に置き換えたユーモア、ファシズムに反対したフランス共産党のデモを表現するスチール写真によるモンタージュ。特にスチール写真によるモンタージュでは両足をやられ道路に倒れながらも誇り高く上半身を起こす青年、顔から血を流す紳士等の写真を組合わせて当時の緊迫した時代の空気を見事に表現していました。
そしてファシズムが時代の表舞台に立っていく様子をドキュメンタリー・フィルムも使いながら無駄なく編集で観せていく手際は本当に上手いなあと思いました。
導入部は1930年代の暗く緊張を孕んだヨーロッパをまざまざと観せてくれ、その1930年代のヨーロッパを舞台にした「暗殺の森」で愛する女を見殺しにした男の心にあったものを理解させてくれたのでした。
1997/01/11