- 1935年フランス映画
- 監督:ジャン・ルノワール 脚本:ジャック・プレヴェール/ジャン・ルノワール
- 撮影:ジャン・バシュレ
- 主演:ジュール・ベリー/ルネ・ルフェーヴル
NFCルノワール特集です。
脚本にジャック・プレヴェールが参加しています。音楽好きの人はコラ・ヴォケールやバルバラが歌った彼のシャンソンがすぐに浮かんでくるでしょう。ヴォケールは「語り」としてのシャンソンを確立した人ですし、バルバラは最後まで反骨・反俗の気概を貫き通した人です。そんなことからも分かるようにプレヴェールは左翼的知識人です。当然この映画にも左翼的内容があります。
それは出版社を巡っての「経営者独裁経営」対「協同組合経営」という図式の中に見えるでしょう。しかしこの映画は最後の寄りそうようにして砂浜を強い海風を受けながら自由に向かって去って行く男女の印象的な映像が代表するようにそんな図式を越えた感動を与えてくれます。
けっきょく心を打つのはルノワールの深い人間洞察です。特に人間の性的関係の描写の巧みさには舌を巻きました。一度寝たがもはや愛しあっていない男女。寝たが故の親密さと愛がない故の疎遠さが二人のやりとりの中に見事に表現されていました。
そして犬を真中に置いての窓越しの若い恋人同志のやりとり。他の男の子供を宿してしまった娘は去る決心をしている。足を事故で骨折した青年は笑う。なぜ笑うの。僕の骨折に較べれば妊娠なんて大したことじゃない。涙に顔を伏せる娘。ルノワールの人間観が現れていて好きなシーンです。
ルノワールの映画には必ず犬が登場しますがきっと「ジャン・ルノワール映画と犬」というテーマで書かれた本があるでしょうね。今度探してみることにします。
この映画のハイライトは協同組合の人たちのパーティのシーンでしょう。立ち上がって調子外れの歌を歌う老人。含羞みながら挨拶をする協同組合の代表たち。再び立ち上がって調子外れの歌を歌う老人。周りの人たちは呆れながらも楽しそうに唱和するのでした。協同組合の人たちの和気あいあいとした雰囲気がしっかりと伝わってきました。この辺りの演出は見事としか言いようがありません。
このシーンがあるから大人しいランジュ氏が協同組合を壊そうとする経営者を射殺するのが充分に首肯けるのです。この射殺シーンのカメラワークは見ものです。カメラはデビュー作の「水の娘」1924からの付合いであるジャン・バシュレです。
夜の中庭で争うランジュ氏の恋人と経営者。カメラはそのまま上昇し建物の二階の窓を捉えます。窓の中にはランジュ氏。ランジュ氏は階下に向かって廊下を移動します。カメラは移動するランジュ氏をパンしながら窓越しに捉えます。カメラは建物の壁に達するとと再び下降します。建物の戸口に立つランジュ氏。カメラは一気にパンしてランジュ氏の主観ショットになります。争うランジュ氏の恋人と経営者。
言葉ではうまく伝えられないのですがこのシーンでのカメラワークは流れるようでまるで魔法を見ているようでした。
フランソワ・トリュフォーが絶賛したのが充分納得できました。
1996/11/19