2016/02/23

世界の始まりへの旅


  • 1997年ポルトガル=フランス映画 4/3シャンテ・シネ2
  • 監督/脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
  • 撮影:レナート・ベルタ 録音:ジャン=ポール・ミュジェル
  • 出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ジャン=イヴ・ゴーチエ/レオノール・シルヴェイラ


 カメラは去っていく道路を撮り続ける。迫り来るものではなく去って消えていくものを撮り続ける。それらの画面の奥に消えていく映像の途絶えることのない流れが観る者を過去へと運ぶ。いやそれを過去と呼んだら、あまりにも皮相だ。過去と呼ぶくらいなら未来と呼んだ方がいい。
 木の緑の輝きから現れ詩を伝える女性は陽気に人はいつかは死ぬと言う。未来にあるのはアダムとイヴがこの世に現れる前の誰もいない荒涼とした土地なのだ。去って消えていくものの絶え間ない映像の流れは観る者を荒涼とした土地へ、世界の始まりへと連れていく。

 暗い服を着た二人の男と明るい服を着た男と女。

 暗い服を着た男は明るく輝きに満ちた色に手を伸ばすが、その色に到達することはできない。男はブラジルの詩人の言葉を使ってその意味を語ろうとする。その言葉を語るのはもう一人の暗い服を着た男だ。

 明るい服を着た男は喪服に身を包んだ女と出会う。あるいは見出す。男の服の明るさと喪服のどんな夜よりも黒い黒が美しく響き合い、そのまえに鮮やかな色が出現する。その色は暗い服を着た男が到達することができなかった色なのだ。

 明るい服を着た男と暗い服を着た男は向かい合う。明るい服を着た男は言う。あなたもわたしも同じなのだ。誰も救う者はいない。

 そして映画は終わる。

1998/04/03