- 1938年イギリス映画
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック
- 撮影:Jack E. Cox
- 主演:マーガレット・ロックウッド/マイケル・レッドグレープ
ヒッチコックは英国時代に23本の映画を撮っていますが、この映画はそのラストから2本目の映画です。23本という本数だけからも分かるようにヒッチコックが40歳近くになってハリウッドに行く前に既に彼は英国においてスターでした。
最初の2本の映画はドイツで撮っています。この時フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウやフリッツ・ラングを知り、光と影を使って怪異なイメージを造りあげたドイツ表現主義の影響を受けたようです。
ヒッチコックが初めて映画に俳優として登場したのはそのドイツ表現主義の影響を感じさせる「下宿人」(1926)においてです。低予算の映画だったのでエキストラにかかる金をきりつめるためだったようです。
さて1938年に撮られたこの映画ですが、日本で初公開されたのはなんと1976年の時でした。
タイトルロールはミニチュアから始まります。
雄大な雪に被われた山脈。雪に埋もれた列車。人間たち。ステーションホテル。そのドアにカメラが近づく。ドアの向こうは実写のホテルの中。メルヘンチックな出だしで惹かれました。
リア・プロジェクション(スクリーン・プロセス)の使い方に感心しました。効果的に使って不自然さを感じさせません。所々ミニチュアが使われますがそれも映画に自然に溶け込んでいました。特殊撮影に関しては名人芸という印象を受けました。
目まいを起こすシーンで人物がぐるぐる回りだし、それがそのまま列車の回転する車輪のカットに移るのはうまいなあと思いました。
会話も洒落ています。中年の婦人が自分の名前を説明するのに「'Froy'よ。'Joy'と韻が同じだわ」と言うのはなんだか好きです。
英国人紳士コンビが愉快です。ホテルが混んでメイドの部屋に押し込められても、夕食にはきちんとブラックタイで正装して行くというのがいかにも英国人らしくて笑いを誘います。そうやってやっと食堂に行ったのに、料理はないと言われたときの2人の表情。それはラストシーンでの2人の表情と重なり合います。
ブランディーを使ったシーンはいかにもヒッチコック。薬が入っていることを知っている観客は主人公の2人がグラスに手をやるたびに、ハラハラドキドキしてしまうのでした。
1996/04/30