- 1952年フランス=イタリア映画
- 監督/脚本:ジャン・ルノワール
- 主演アンナ・マニャーニ/ダンカン・ラモント
NFCルノワール特集です。
冒頭は闇から始まり驚きましたが、観終わったら最後に誰もいない舞台に立つカミーラと響き合って印象深い始まりでした。
お腹を抱えて笑える娯楽作品であるのに同時に見事な芸術論になっているのに感心しました。誰もいない舞台に立つカミーラは芸術家としてのルノワールの自我像なのでしょうか?
注目すべきはカミーラがけっして舞台に「真実」を求めるタイプの女優ではないことです。彼女が舞台に求めるのは「受ける」こと、ただそれだけです。まさにエンターテイナー。受ければ子供のように無邪気に喜びます。人気闘牛士が客席に来て観客が一斉に彼の方に向いて騒いだとき、再び観客を舞台に向かわせるカミーラの力業は見物です。舞台に観客を集中させ舞台の上で輝くのがカミーラです。
そんな役者馬鹿的なカミーラが遂には実人生から追いだされ舞台にたった一人で残されるのは象徴的です。座長はカミーラにお前が自分自身を見出すのは舞台の上でしかないと言います。座長はカミーラに寂しいかと訊きます。カミーラはこくりと首肯きながらも舞台の上に立ち続けるのでした。そこに芸術家としてのルノワールの決意のようなものを感じました。
通常芸術と娯楽は対立的なものとして捉えられますが、カミーラという主人公を通してルノワールが両者をけっして対立するものとして考えていなかったことがはっきりと分かりました。それは嬉しい発見でした。
闘牛の場面をカミーラの顔のクロース・アップだけで観せてしまところはまさに職人芸!
そして嫉妬の炎をメラメラ燃やしたカミーラが「ジュ・スイ・カーム(私は冷静よ)」と言うところ。もの凄い迫力があって好きです。
1996/11/15