2016/02/27

南風


  • 1939年松竹大船
  • 監督:渋谷実
  • 主演:田中絹代/徳大寺伸/佐分利信


 東京国立フィルムセンター「日本映画の発見2:トーキーの開始と戦前の黄金時代」特集です。1939年の作品です。

 タイトルで「土橋式松竹フォーン」とクレジットされました。トーキー初期日本の各映画会社は独自の映画録音の技術を開発しました。これはアメリカで開発されたウェスタン方式の特許使用料が高かったためです。
 ちなみに当時は光学式の録音システムでした。音の信号を光に置き換えて映像フィルムに焼き付けて録音していたのです。

 ということで僕は音に耳を澄ましたのですが、冒頭の雨が降るのを窓の隙間から捉えたショットから映像がスタイリッシュでそちらの方に感心してしまいました。特に電球、薬罐等の物のクローズアップでシーンとシーンを繋げる手法は素敵だなあと思いました。

 佐分利信が印象に残ります。この人が持つ大らかな暖かさが「南風」という題名を支えています。

 田中絹代が演じる菊子は一言で言えば陰湿で、その奥にある孤独を周囲の人間、友人や恋人からさえも理解されず、ついには恋人も友人も失ってしまいます。この辺の切なさはよく分かるひとが多いのではないでしょうか。僕も菊子に感情移入してしまい映像も録音もどうでもよくなりました。

 子供もなにもかも失い家の中でぽつんと一人きりになった菊子が、戻ってきた佐分利信とその母親を見つけたときの笑顔は感動的でした。最後に南風が吹き映画は終わったのでした。

 この映画にはところどころに秀逸なユーモアがちりばめられていますが、これは脚本が喜劇出身の伏見晃だからかな。

1996/08/17