- 1952年アメリカ映画 1/28NFC
- 監督:ハワード・ホークス 脚本:ベン・ヘクト
- 撮影:ミルトン・クラスナー 美術:ライル・ウィラー
- 出演:ケーリー・グラント/ジンジャー・ロジャース/マリリン・モンロー
1950年代はアメリカ映画において、女性像が後退した年代だ。1930年代、1940年代においては女性は男性と同様に社会的存在で溌剌とスクリーンを動き回っていた。1950年代はアメリカが経済的繁栄を迎えた年代だが、その経済的繁栄と対応するように社会の保守化も進んだ。女性像に限れば、女性は社会から家庭へと戻り、良妻賢母であることを求められた。そのイメージの移行を見事になぞっているのが、ジンジャー・ロジャース演じる科学者の妻だ。彼女は研究者としての素質を持ちながら、社会的存在であることでなく家庭的存在であることを選んでいる。或いは選ばされている。
そしてそのような保守化の中では女性はもう一つのことを求められる。可愛い女であることだ。それをイメージ化しているのが、製薬会社の秘書を演じるマリリン・モンローだ。可愛いという内容は、唾棄すべきものであって、セクシーでかつ社会的能力がゼロということだ。モンロー演じる秘書はタイプすらできない。
女性像という観点から見るならば、この上質なコメディ映画はかなり胡散臭い。
ただ救いはジンジャー・ロジャース演じる科学者の妻で、彼女は男たちと対等に渡り合いながら、家庭的存在である自分が、強制されたものでなく、自らが選んだ結果であることを示している。彼女は1930年代1940年代の女性像の後継者なのだ。そしてマリリン・モンロー演じる社長秘書でさえ自立した女性の顔を、ほんの一瞬だが、覗かせることがある。
もう一つこの映画で興味深いのは言葉遊びだ。『教授と美女』ではその言葉遊びは明確に明示されていたが、この映画では明示されないながらもコメディの中心の一つとなっている。ケーリー・グラントとジンジャー・ロジャースが演じる夫婦はある薬を飲むことによって精神的に若返るが、若返ることによって端正な二人の英語はかなりぞんざいな若者英語に変わる。その対照が笑いを誘うのだ。
そうそう「若返った」ケーリー・グラントがスポーツ・カーを「ぶっ飛ばす」シーンはとても楽しい。そのシーンの背後には車好きのハワード・ホークスの子供のような顔が見えてくる。僕が一番好きなシーンかもしれない。
2000/01/28