- 1994年ポルトガル映画
- 監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
- 主演:ルイス=ミゲル・シントラ/ベアトリス・バダルダ/フィリペ・コショフェル
映画を見続けてきて本当によかったなとしみじみ思わせてくれる素敵な映画でした。
監督のマノエル・デ・オリヴェイラの作品は、去年「アブラハム渓谷」を見たのが始めてですが、その時は、この人はさぞ厳格で恐い老人なんだろうなという印象を受けました。この作品を見て、この人がかなりユーモアを愛する人で、茶目っ気もたっぷりなことが分かりました。
ユーモアの方は、一方が、'I don't understand anything!'と叫ぶと、片方がすかさず'Anything!'と続ける、アメリカ人中年女性「漫才コンビ」に代表されますし、茶目っ気の方は、この映画に3回「出演する」黄色の派手な柄のブラウスに代表されています。どこで出演するかは、見てのお楽しみということで。
赤が好きな人であることも分かりました。盲人用の杖の把手の赤が、画面の左下に置かれ、画面に軽やかさを与えていました。登場人物の女性たちは、結局、一人を除いてみんな赤系統の服を身に付けます。その一人は、両手を真っ赤な血で染めてしまった女性です。白のTシャツを染める赤い血。石畳の赤い血の染み。オリベイラが赤を好むのは、それが血の色だからのようです。
ラテン系の男性には、どうしてあんなにもナイフが似合うのだろうと改めて思いました。血とナイフと暴力。オリヴェイラは、ラテン文化の最良のものを見せてくれました。
そして、「奇妙」な人々。 場末の酒場で美しく「アベ・マリア」をギターで弾く大学教授は、そのままニュー・ヨークに連れていって、ハル・ハートリーの映画に出演させてもピッタリと納まりそうでした。
真っ赤な、体にピッタリした服に身を包んだ娼婦が登場すると、俳優が、観客に向かって、「すげえ。」と語りかけたり等とまさに天衣無縫、こんな面白い人を今まで知らなかったとはと後悔しました。しかし、画面構成は、荘重と言っていい程厳格で、なんなんだろうこの人。こんな厳格さが基本にあるから、「暴走」できるのかな。
貧しいけれど、心優しい人達の話を間違っても期待してはいけません。この階段通りに生きる人達は、普通の人なら気が狂ってしまう様な悲惨な目に遭っても、それを「身の上話」にしてお金を稼いでしまう程パワフルなんですから。
オリヴェイラの後継者に、ジョアン・マリオ・グリロ、ペドロ・コスタ、エドガー・ペレらの若手の監督がいるそうです。ぜひ彼らの作品を見てみたいなあと思いました。
1995/02/18