2016/02/28

デルス・ウザーラ


  • 1975年ソ連・日本映画 7/27NFC
  • 監督/脚本:黒澤明
  • 撮影:中井朝一 音楽:イサーク・シュワルツ
  • 出演:ユーリー・サローミン/マキシム・ムンズク/スベトラーナ・ダニエルチェンコ


 画面一杯に広がる黄色。その黄色はやがて厳しい白色になり、その白も春の訪れによって川に流され、緑の夏がやって来る。そして秋の黄色が世界を覆う。

 自然の精であるようなデルス・ウザーラはやがて冬が訪れるだろう季節に現われ、冬の季節に去っていく。ここにあるものを自然と文明との出会いとするならば、それはあまりにも浅薄だ。
 文明を代表する存在であるような知的な軍人と、山の中で眠り、食べ、猟をするデルス。二人の出会いは、まさに自然と文明との出会いなのだが、そんな図式はこの映画ではまったく重要でない。重要なのは自然そのものなのだ。

 自然は人間に調和している訳でも、敵対している訳でもない。映画の中の凍り付いた湖のように自然は人間に対してとても静かだ。その静けさを軍人は不気味だと表現するが、不気味なのは自然が人間と全く無関係に存在するものだからなのだ。自然はみずからの営みを営み続けるのであって、人間に試練を与えたり、慈悲を与えたりする訳では決してない。

 最新式の銃を持っていたばかりにデルスは殺されるが、それは文明と深く関わりすぎたデルスに対する自然の罰ではない。ここで重要なのはあれほど自然に溶け込んでいたデルスが文明の只中で殺されるということなのだ。自然はデルスを文明の中に見捨てている。自然にとってデルスはどうでもいい存在なのだ。

 自然対人間。それは永遠のテーマだが、この映画はその自然が人間とは全く無関係に存在するものであることを美しく厳しく表現する。無関係という関係。その関係には馴れ合いが入る余地は全く無い。だからこそ美しい。

2000/07/27