2016/02/26

祇園の姉妹


  • 1936年第一映画/松竹キネマ
  • 監督:溝口健二
  • 主演:山田五十鈴/梅村蓉子


 いま、東京国立フィルムセンターでは、山田五十鈴の特集を行なっています。

 「祇園の姉妹」は、溝口作品として是非見たい作品だったので、2年ぶりに、朝は、「ウォーターワールド」、昼間は、この作品と、1日に映画を2本も見てしまいました。

 「祇園の姉妹」と対をなすのは、「夜の女たち」でしょう。どちらも、売春をテーマにした映画です。後者が、東京を舞台にし、前者は、京都を舞台にしています。「夜の女たち」では、田中絹代が、気迫のある演技を見せてくれましたが、「祇園の姉妹」では、最後に、満身創痍の山田五十鈴が、血を吐くように、激しいセリフを吐いて、映画は終わります。

 テーマは、明確です。両者とも、メッセージ映画といえるもので、溝口監督は、人が人を買ったり、売ったりするのは、間違っていると主張しています。女性の心理を見事に描きだした、溝口監督だからこそ、「売春」する女性の悲しみが、よく分かったのでしょう。

 興味深いのは、両作品が、対照的な性格を持っていることです。「夜の女たち」は、あくまでもシリアスでしたが、「祇園の姉妹」は、コミカルです。「祇園の姉妹」から、そのメッセージ性を引いてやれば、見事な、エルンスト・ルビッチ風ソフィスティケイティッド・ラブ・コメディです。謹厳実直なイメージで登場した呉服問屋の旦那を、山田五十鈴が、手玉に取るところなんか、場内の人は、みんな笑い声を上げていました。でも、溝口監督は、にこにこ顔では、観客を帰さない。最後に、重い問題を真っ直ぐに投げ寄越し、観客を、真顔にしてしまうのです。この辺に、溝口監督の、秘密があるのでしょうか。

 山田五十鈴は、やっぱり凄い。この時の彼女は、19歳。シュミーズ姿でも、気品と、人を寄せ付けさせない威厳がある。まさに、われらが女優です。

1995/08/12