- 1995年香港映画
- 監督/脚本:ウォン・カーウァイ 撮影:クリストファー・ドイル/ラウ・ウァイキョン
- 主演:ブリジット・リン/タケシ・カネシロ/トニー・レオン/フェイ・ウォン
クエンティン・タランティーノが、感動のあまり、涙を流したという、映画です。タランティーノは、今度自分の外国映画配給レーベル「ローリング・サンダー」を設けますが、その第1弾として、この映画を選んだそうです。
人を感動させるとまで、言われる、美貌の持ち主、ブリジッド・リンは、金髪ウィッグ・ハイヒールで、街の中を疾走し、いかにも場慣れした様子で、拳銃を撃ちます。そう書くと、あっ、ジーナ・ローランズだと思われる人もいるのではないでしょうか。実際、ウォン・カーウァイ監督は、「グロリア」をモデルにしたそうです。シーンとシーンが、複雑に絡み合った「東邪西毒」では、その複雑さの中に搦め捕られ、身動きができなくなってしまったと言う、カーウァイ監督は、今度は、ジョン・カサヴェテスのように、自由に、身軽に映画を撮りたい。そう思って、この作品を撮ったそうです。だから、周到な語り口を持った「欲望の翼」とは、イメージが大きく異なります。カーウァイ監督が、届けてくれたのは、シンプルでストレートな恋の物語でした。
この作品は、前半と後半、2つの物語から、構成されていますが、撮影監督も、前半が、ラウ・ウァイキョン、後半が、クリストファー・ドイルと異なっています。僕だけでなく、大部分の人達が、前半の、ラウ・ウァイキョンの映像のカッコよさに、魅き込まれるのではないでしょうか。
おそらく、大部分の人達にとって、印象に残るのは、タケシ・カネシロ であり、フェイ・ウォンでしょうが、僕にとっては、なんといっても、ブリジッド・リンです。酒場で、人の本質なんて、いつかは変わるものだし、好みだって変わると心に呟くときの、彼女は、本当にカッコいい。
タランティーノは、前半と後半との、ターニング・ポイントは、ブリジット・リンが、タケシ・カネシロを撃つシーンにすべきだったと語っていますが、僕もそう思います。失恋の涙を隠すためでなく、麻薬ディーラーの正体を隠すために、サングラスをしている、ブリジット・リンが、刑事のタケシ・カネシロの前で、サングラスを外す。人を知ろうとしても無駄だし、知れば、不幸になることもある。そのセリフに、銃声が被さる。
残念なことに、ブリジット・リンは、実業家と結婚し、引退してしまったそうです。こんなに優れた人がと、本当に残念です。
深読みしようとすると、いくらでも、深読みできそうな作品ですが、「思いっきり単純で、リニアな物語を語りたかった」という、カーウァイ監督の言葉を考えるならば、気軽に楽しむのが、正しい観方でしょう。
1995/07/15