- 1995年香港映画
- 監督/脚本:ウォン・カーウァイ 撮影:クリストファー・ドイル
- 主演:レオン・ライ/ミシェル・リー/カネシロ・タケシ
「欲望の翼」のラスト・シーン。天井の低い細長い部屋でプロのギャンブラーが身支度を整え出ていく。
「欲望の翼」は2部作だったそうですが、予算を使いきって第1部だけの撮影で終わったそうです。この映画の殺し屋の細長い部屋を観ながら、この映画は「欲望の翼」の続編なんだと感じました。
「欲望の翼」の6人の天使たちは5人に減り、職業も性も変わっています。「欲望の翼」の冒頭の売店に掛けてあった大きな時計が、そのまま変わらず殺し屋の部屋に掛けてあります。「欲望の翼」でのヨディのセリフが浮かんで来ます。「1960年4月16日、3時前の1分間、君は俺といた。この1分を忘れない」。
この映画はヨディの唯一無二の1分間から成り立っています。一瞬こそが大切なのです。監督のウォン・カーウァイはインタビューで「人間が生きていくことの最大の報酬は(掛け替えのない一瞬の)思い出を持てるということだ」と述べています。
子供の頃期限切れの缶詰のパイナップルを食べて口がきけなくなった青年と、アイスクリーム車に妻が轢かれて死んでから無口になった父親の関係がしみじみと暖かく心を打ちます。父親の身の回りの品を整理しながら自分はもう子供でなく大人だということに気づく青年。青年は父親の誕生日に台所で楽しそうにしている父親を撮ったビデオを繰り返し観ます。去っていく父親の映像。青年は大切な思い出を受け取るのでした。
ラスト。少し寒いと感じる青年と、体の中心に寒さがあると感じる女。雲のかかった都会の夜明けの道路を2人はバイクで走る。青年の背中に掴まった女は青年の背中の暖かさを永遠のものだと思う。
列車の座席の中で銃弾を腹に打ち込まれたヨディ。息を引き取る前ヨディはある質問をされる。「去年の4月16日、3時に何をしていた?」。ヨディは覚えていた。死んだヨディの顔に朝の陽光が反射する。
これら2つの結末を比べながら「明日は暗い日でなく輝いているだろう」と思ったのでした。
1996/07/05