2016/02/12

荒れ地


  • 1929年フランス映画
  • 監督:ジャン・ルノワール 脚本:A・デュピュイ=マズュエル
  • 撮影:M・リュシアン
  • 主演:J・モニエ/ディアナ・ハート


 NFCルノワール特集。
 この国策映画は楽しみにしてした映画です。国策映画というとそれだけで負のイメージを持たれ映画史でも無視されることがあるのですが、例えば日本映画で帝国陸軍省の後援で作られた「軍神橘中佐」1926のように純粋に映画として観ても秀作である映画も少なくありません。
 特にこの「荒れ地」はシネマテーク・フランセーズの門外不出のフィルムでぜひ観たいと思っていました。
 前の日の夜プログラムをぼーっと眺めていたら、12日が最終上映!え?たった2回しか上映されないんだ!ということで慌てて駆け付けたのでした。
 上映前に説明があってこの映画はフランスでもめったに上映されることがないそうです。一生に一度の機会を逃さずにすんだというわけでした。

 アルジェリアが舞台です。アルジェリアの紹介から始まります。蒸気機関車が鉄橋を背後から陽光を受けならが渡るのをロングで捉えたショットがとても美しかったです。艶やかに光るブトウを実直な農民の手がもぎ取るのをクロース・アップで捉えた映像も印象に残りました。

 いろんなテーマが見えてくる映画ですが、僕は父親と息子という主題に一番惹かれました。この映画では息子は父親の遺産で暮らしているパリの浮薄な生活に染まった青年で父親はその青年の叔父という形になっています。叔父は無一文でアルジェリアの荒れ地に挑みそれを豊かな農地にした地についた人物です。対照的な青年と叔父で、その対比をうまく使って映画はユーモラスに進んでいきます。パリからアルジェリアを訪れた青年の歓迎会で叔父や使用人は作業着姿なのに青年がタキシード姿で現れるのはその代表的なシーンでしょう。
 実は青年は叔父に借金に来たのでした。叔父は貸すことを承知しますが、ただしここで半年働けと言います。青年は迷いますがアルジェリアに来る船上で出会った恋人が近くにいることを知って叔父の条件を受け入れます。いったん農場で働き始めると二の腕も逞しい青年はすっかり農作業になじみます。いい息子ができたと喜ぶ叔父。大雨の日。軒下の横木に座る青年と叔父。上機嫌で最高の天気だと言う叔父。なにか話すことがあって真剣な顔をしている青年。叔父さん、僕結婚するんです。青年を肘でつっつく叔父。誰だい?青年は名前を告げます。顔を曇らす叔父。その女性は莫大な遺産を継いだばかりの女性で叔父は青年がここを捨てまたパリに戻ってしまうと思ったのです。不機嫌に雨の中を去る叔父。青年も不機嫌になって木を蹴飛ばします。そして雨の中を去っていく叔父の背中を見つめる青年のせつなそうな顔のクロース・アップ。この映画で一番好きなシーンです。
 青年はなんとか叔父と恋人を引合わせようとします。青年は友人に叔父と青年の恋人をカモシカ狩に誘ってくれるように頼みます。
 けっきょく青年の恋人もアルジェリアの大地を愛する人間であることが分かり、青年とその恋人は叔父の家で結婚式を挙げるのです。
 結婚式の夜。馬小屋でうっとりと寄り添って座っている作業着の青年と恋人。呼ばれて式場に行ってみると叔父を初めみんなタキシード姿です。慌てる青年。初めのシーンと対照を見せながらのユーモアたっぷりのシーンでしたが、同時に青年がすっかりアルジェリアの人間になり叔父の息子になったことも表現していてうまいなあと思いました。
 見終わった後ほのぼのとした気持ちになりました。

 書き落としてはならないシーンがあります。猟銃に倒れたカモシカが二頭の猟犬に噛みかれ付かれ引き摺り回されるシーン。落馬した女性が涎を流しながら身体を痙攣させて死んでいくシーン。
 死の即物的な描写は「ゲームの規則」でもちょっと衝撃を受けましたが、そこにはルノワールの秘密がありそうです。これは僕の宿題にします。

1996/11/13