- 1932年イギリス映画
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック
- 主演:ヘンリー・ケンドール/ジョーン・バリー/パーシー・マーモント
1932年製作のアルフレッド・ヒッチコックの作品です。
30年代といえば、ヒッチコックが、イギリスの映画界に君臨していた頃で、当然、この映画も、イギリス映画です。この映画を見ると、既にこの時代、ヒッチコックの技法は確立されていたことが分かります。例えば、旅行カバンの鏡に映った像を捉えたショットを挙げることができるでしょう。もちろん、冒頭の会社のシーン。地下鉄のシーンも挙げることができます。
原題は、「RICH AND STRANGE」です。これは、シェイクスピアの「テンペスト」からの引用です。海は、すべてのものを、豊かで、神秘的なもの(RICH AND STRANGE)に造り変える。そして、副題が、「EAST OF SHANGHAI」。東洋が、重要な意味を持ちます。
東京国立フィルムセンターでの上映ですが、日本語字幕は、ありません。代わりに、粗筋を書いた紙を渡されますから、上映前に、目を通すことをお勧めします。
ヒッチコックの自伝的要素が強い作品とのことで、ファンのかたは、その面からも、興味深く見れるのではないでしょうか。
要するに、サラリーマン夫婦が、お金を得て、船で、世界旅行する話です。原題が引用している「テンペスト」の文章を見れば分かるように、その夫婦が、船旅を通して、成長する物語になっています。最後に、夫婦の乗った蒸気船は、難破し、夫婦は、中国人の船に助けられるのですが、そこで、夫婦は、3つの体験をします。仲間が、溺れて死んで行くのを、じっと見つめるだけの、中国人達。乱暴にも、海水を掛けられる、生まれたばかりの、赤ん坊。赤ん坊は、元気にはしゃぐ。そして、旨味しくて、夫婦が、夢中で、食べる料理。それは、黒猫を料理したものであることが分かり、夫婦は、そろって吐く。それら3つの体験が、この映画の核になっているようです。
生の秘密を、垣間見た夫婦は、自分達に与えられた生を受け入れ、ロンドン郊外の家へ、自分達の生活へと戻るのです。
1995/07/20