2016/02/27

海の花火


  • 1951年松竹大船映画 8/19NFC
  • 監督/脚本:木下恵介
  • 撮影:楠田浩之 美術:濱田辰雄
  • 出演:木暮実千代/桂木洋子/山田五十鈴


 木下恵介という一人の創造者に注目するとき、この映画で興味深いのはその女性像だ。そしてその女性像には、明示されていないにしろ、同性愛者も含まれる。

 典型という言葉を使うならば、この映画には様々な女性の典型が登場する。困難にぶつかった時、泣くことしかしらない女性。気性が激しいが、さっぱりした女性。利己的で極端に我が強い女性。実務能力に長けた自立した女性。あばずれだが純情な女性。周りの人たちの幸福も考えながら、自分の思いを大切にする女性。無垢で純粋な女性。そして一途な同性愛者。

 僕は山田五十鈴が演じた「実務能力に長けた自立した女性」が印象に残った。自分の恋が決定的に破れたと知ったとき、彼女はきっぱりと諦める。そこには自立した人間の爽やかさがある。
 組合長の二人の娘こそは木下恵介監督の理想の女性像なのかもしれない。「無垢で純粋な女性」である妹が成長して「周りの人たちの幸福も考えながら、自分の思いを大切にする女性」になる。そして二人の背後には「一途な」同性愛者がいて、これら3人で木下恵介の女性の理想像を創り上げるのだ。

 この女性の理想像はそのまま木下恵介の人間の理想像であることに気付く。純粋さ、直向さ。たぶんそれらは人生にはあまりにも美し過ぎるが、それだからこそこの映画に光を与える。この光こそは木下恵介監督の創り出してきた映画たちの本質なのだ、そう僕は感じる。

2000/08/19