- 1981年フランス映画
- 監督:エリック・ロメール
- 撮影:Bernard Lutic
- 主演:フィリップ・マルロー/マリー・リヴィエール/アンヌ=ロール・ムーリー
1981年の作品。「喜劇と格言劇シリーズ」の第1話。
エリック・ロメールは1975年の「O侯爵夫人」そして「ベルスヴァル・ガロワ」と過去に題材を求めた作品を撮っていましたが、この作品で再び「現代のパリ」をテーマにしています。その意味ではパリこそこの作品の主人公です。この作品はいまを生きているパリの光と音に充ち満ちています。
僕は生活費のために郵便局で夜勤している学生のフランソワがカフェでうとうとと眠ってしまうシーンが好きです。彼の背後にはガラス越しにパリの街道が見え、行き交う車の音が彼を包んでいます。それらの音はパリが歌うララバイのようで、思わずにっこりしてしまいました。
ロメールって赤が好きなんだなと改めて思いました。路上に駐車している車の中には赤の車があるし、街角を捉えたショットには赤の標識があるし、フランソワが公園を一緒に歩く女の子は赤のネックレスをしているし、フランソワの恋人は右手に赤の腕輪をしているという具合です。
会話がやっぱり魅力的です。機知に富んで鋭いけれど、決して深刻にはならない。軽快で楽しさを印象に残します。
登場人物たちが置かれている状況はかなり厳しいものです。急に姿を消した恋人が久しぶりに現れたと思ったら、別れ話を切り出す。恋人のアパートを訪ねたら、別の男と部屋を出る恋人を目撃してしまう。でも、陰々滅々にはならない。そこには明るい虚無主義とでも言うべきものがあって好きです。どんな状況に置かれても顔は光に向かっていると表現すればいいのかな。闇に目を向けて、闇の奥に捕らわれてしまうということはありません。
この作品に登場する人物たちは表面の世界の住人で、地下の世界の住人ではありません。だから光がこんなにも印象に残るのでしょう。
1996/03/07