2016/02/13

十字路の夜


  • 1932年フランス映画
  • 監督/脚本:ジャン・ルノワール
  • 撮影:M・リュシアン
  • 主演:ピエール・ルノワール/ジョルジュ・テロフ


 NFCルノワール特集です。
 パンフレットにジャン=リュック・ゴダールがフランスで唯一のフィルム・ノワールだと述べていると書いてあいて、これは大変と早めにNFCに行ったのでした。
 ゴダールのファンは多いので席が無くなると思ったのです。ちなみにNFCの大ホールの定員は300名です。2階席もあるのですが使用されたことが僕が知る限りありません。唯一フランスの映画会社、ゴーモン社の社長が座ったのを見たきりです。使えるのなら毎回満席のルノワール特集中は開放して欲しいなと思いますが、これは事情があるかもしれないので、なんとも言えません。

 パンフレットにはセリフは同時録音と記載されていますが、当時ワイヤレスマイクは無かったので、屋外のシーンのセリフは同時録音は無理でしょう。例えば登場人物の近くにある車にマイクを仕掛けたのかなとも考えましたが、そうだと仮定した場合車の近くにいる人のセリフも遠く離れた人のセリフも同じ大きさで辻褄が合いません。この辺りご存知の方がいらっしゃいましたらお教え願います。
 またパンフレットにはセリフが不明瞭と書かれていますが、そんなことはなくかなり明りょうでした。タイトルロールでウェスタン方式とクレジットされていました。アメリカのウェスタン方式は当時優れた録音方式で日本の録音技師たちもSMPTEという映画技術専門誌等を通してウェスタン方式を研究していたのです。

 この映画で印象的なのは編集でしょう。容疑者の取り調べの場面では、交差カットと言うのかな、取り調べ室のショットと首から下の通行人がその前を行き来する路上の新聞スタンドのショットが交互に繋がれています。そして水道の蛇口の下の滴を受けて満杯になったコップのクロース・アップがポイントポイントで挿入されます。この辺り僕はスタイリッシュという印象を受けました。
 そしてメグレ警部が銃弾の雨を受ける直前の急激なカットバック。ダイナミックさを映画に与えていました。

 夫人が銃弾に倒れるシーンはほとんど闇で、僕は「セブン」でのダリウス・コンディのカメラを思い浮かべました。闇の中の光。銃声。駆ける足音。人の声。それらが独特の雰囲気を作っていました。まさにフィルム・ノワール。

 ストーリーの骨格は娼婦に恋した貴族です。父親の絵のモデルに恋したルノワールを重ねる人もいるのではないでしょうか。最後の場面で娼婦は真実の愛と現世的利害の間に立ち決断を迫られます。愛を選んだ娼婦にメグレ警部は二年の刑期が終わればあなたは真に自由になれるとやさしく言うのでした。

1996/11/21