- 1975年フランス映画
- 監督:フランソワ・トリュフォー
- 撮影:ネストール・アルメンドロス
- 主演:イザベル・アジャーニ/ブルース・ロビンソン/シルヴィア・マリオット
今年は、フランソワ・トリュフォーの没後10年です。
それを記念して、この'75年の作品が公開中です。
冒頭の暗い海に浮かぶ上陸船に乗ったアデルの不安そうな表情が印象的です。この表情は、ラストのひっそりした真昼の黒人街を歩くアデルの放心し、どこか恍惚とした表情と響きあいます。
ものを書くということ、一般的に言うと、ものを表現することの意味について考えさせられました。
吹雪の中を、コートも食べるものもないのに、書くための紙を買いに行くアデル。
そんなにまでして、書くことにこだわるのは、書くことが、アデルにとって、唯一の支えだからでしょう。
ひたむきに、真っ正直に愛を捧げるアデル。その愛は、あまりにも強いので、相手に拒否されてしまいます。
深く絶望するアデルにとって、書くことが唯一の救いなのです。そこでは、冷たい相手も、優しく微笑みます。
アデルの書くことに対する執念には、凄まじいものがあります。
愛ゆえに卑劣な行動を取ってしまったアデルは、そんな自分を恥じて、心優しい老婦人のいる下宿を飛び出して、救民院に転がり込みます。
そこで、アデルは自分の書いたものが盗られないように、それらが入った鞄を枕にして寝るのです。
ついには、心も体もボロボロにしてしまうアデルですが、死ぬまで書くことを止めません。
孤独な愛の中で、悶え苦しみ遂には狂気に陥ってしまうアデル。
そして、苦しみの中で書くことに唯一の慰めを見いだすアデル。
そんなアデルの姿は、子供時代、母親から愛を拒否され、生涯愛についての映画を撮り続けたトリュフォーの姿と重なり合います。
トリュフォー監督の没後10年を記念するに相応しい作品だと思いました。
1994/12/17