- 2000年デンマーク映画 1/5丸の内プラゼール
- 監督/脚本:ラース・フォン・トリアー
- 撮影:ロビー・ミューラー 音楽:ビョーク
- 出演:ビョーク/カトリーヌ・ドヌーブ/デビッド・モース
僕が惹かれるのは光ではない、闇の中の光なんだと言ったのは、ティム・バードン監督だが、闇を映し出すスクリーンの中で音楽が鳴り響く時、その闇の中の光が輝きだす。管楽器の響きは闇の中の光のきらめきなのだ。だから冒頭で既にこの映画のテーマは提示されている。そして同時にエンディングの意味がここで露にされている。後に続くシーンは全てたぶん蛇足なのだ。
この映画のストーリーは僕には余計なもののように感じられる。些か、いやかなりエキセントリックに語られるストーリーは必要ないばかりか、この映画を損ねている。ラース・フォン・トリアー監督がストーリーを語ろうとする時、僕は目を閉じ、耳を覆いたくなる。
ストーリーから離れる時、ドキュメンタリー・タッチのこの映画はセルマという一人の女性の生を丸ごと掬い上げていく。柔らかな光の中で生が静かに息づいている。僕はそこに心を動かされる。日常のなんの変哲も無い生の流れ。その生の流れをセルマという人間は心から愛している。そこに僕は励まされ、勇気付けられる。無から生まれ無に還っていく人間という存在。人間とはまさに闇の中の光なのだ。セルマのような、ビョークの表現を借りるならば、賢い女性がその光を十全に輝かさせる。
ドラマは必要ないのだ。セルマという人間の在り方を伝えることができれば、それで充分なのだ。僕は冒頭の闇の後のシーンは蛇足だと書いた。それはそれらのシーンにドラマがあるからだ。もしドラマがなかったならどんなに素敵な映画になっただろう、そう僕は痛切に思う。
セルマの日常生活を包む柔らかな光は僕を励まし続けるだろう、だからラース・フォン・トリアー監督にサンキューと伝えたい。
2001/01/05