2016/03/07

バタフライ・キス


  • 1995年イギリス映画 5/19シネ・ラ・セット
  • 監督:マイケル・ウィンター・ボトム 脚本:フランク・コトレル・ボイス
  • 撮影:シェイマス・マクガーヴェイ 音楽:ジョン・ハール
  • 出演:アマンダ・プラマー/サスキア・リーヴス/デス・マッカリーア


 待つ女性がいる。あるいは通り過ぎていく人たちを眺める女性がいる。その女性は旅立つことはできない。その女性には世話をしなければならない祖母がいる。その女性は家に縛りつけられている。

 そこにもう一人の女性が現れる。十字架を背負う代わりに鎖で身体を縛っているこの女性は人を救う代わりに人を殺す。二人が出会ったとき、この女性は待つ女性に闇に溶け込んだ遠い所にある黒い海を指さすのだ。待つ女性は祖母を、家を捨て、この女性を追う。たぶん待つ女性にとってこの女性はキリストなのだ。

 そしてキリストは旅立った女性に死を与える。森に囲まれた闇の中、旅立った女性は死を引き摺る。風が森を騒がす。その音はまるで潮騒のようだ。死を引き摺る旅立った女性にゴルゴタの丘に向かってずっしりと重い十字架を背負い歩くイエスのイメージが重なる。キリストは旅立った女性に生の秘密である死を露にして示すのだ。

 キリストが旅立った女性に教えるのは生ではなく死についてだ。あるいは同じことだが善ではなくて、悪だ。キリストは旅立った女性に人を殺すことを教える。そして旅立った女性はついに人を殺す・・・。

 旅立った女性が人を殺すことを知ったとき、キリストは十字架を、鎖を外す。

 キリストは旅立った女性に自分の背負った苦悩を継がせるのだが、旅立った女性がそのことを知るにはしばらく時間がかかるだろう。いまは旅立った女性は愛する人を亡くした悲しみだけに心を奪われている・・・。

1998/05/19