2016/03/07

太平洋の鷲


  • 1953年東宝映画 5/12NFC
  • 監督:本多猪四郎 脚本:橋本忍
  • 撮影:山田一夫 美術:北猛夫
  • 出演:大河内傳次郎/二本柳寛/清水将夫


 南太平洋の夕焼が映し出されて映画は始まる。それは固定で撮影された映像でパセティックな雰囲気を持っている。
 次のショットは抜身の日本刀のクロース・アップになる。カメラが引くとそこは警察の取調室で、暗殺者である青年がスクリーンに登場する。青年は日独伊三国同盟を強硬に反対する山本五十六こそ最大の敵だと弁舌する。
 次のショットの舞台は電話会社のオペレータ室になる。緊迫した様子で交換手が電話を取次ぐ。海軍大臣から山本五十六次官への緊急の用件が伝えられる。
 そのショットに続くのは、戦闘機のテスト飛行のショットだ。錐揉みしながら落下する戦闘機。錐揉落下した戦闘機は再び天空を目指す。そのテスト飛行を視察しているのが山本五十六だ。

 以上導入部からのシーンの繋ぎを説明したが、これだけでも本多猪四郎監督のダイナミックで優れた娯楽センスを感じてもらえるだろうと思う。

 演出面で面白いなと思ったのは、時間の流れを応接室から見える庭の四季の移り変わりで表現していたことだ。方法自体はありきたりなのだが、映画が人間世界という限定された世界から、自然界全体へとその演出で開放される面があっていいなあと思ったのだ。ただこれは僕のごく個人的な感じ方かもしれない。

 本多猪四郎監督はここで単なる娯楽映画でなく、戦争を真摯に追及した映画も目指している。その意図は主役に大河内傳次郎を配役することによって、ほぼ成功している。僕がこれまでスクリーンで観た限りで判断するならば、大河内傳次郎は剽軽で親しみ易い面を持っていてそれが魅力になっている。この映画で大河内傳次郎は重厚な演技を基調にしてこの映画の真摯に戦争を考えるという面を支えながら、同時にその剽軽な魅力でこの映画を真摯故の退屈さから救い、娯楽映画として楽しめるものとしている。

 最後のシーンは再び南太平洋の夕焼のシーンとなる。

 そのシーンは平和を最後の最後まで願いながら、空中で銃殺された山本五十六へのレクイエムなのだろう。

1999/05/12