- 1957年日活 3/9東京国立フィルムセンター
- 監督:中平康 脚本:新藤兼人
- 撮影:姫田真佐久
- 主演:菅井一郎/西村晃/山根寿子
きょうも東京国立フィルムセンター「1950年代の青空(増村保造)と太陽(中平康)」特集に行ってきました。
2階の大ホールへ昇る階段の壁には大好きな大河内伝次郎のスチール写真が掛けてあって、毎回見惚れています。
この作品は中平監督の1957年の作品です。
主演が菅井一郎です。
小津安二郎の「麦秋」では枯れてすがすがしい美しさを見せる人物を演じている菅井がここでは欲望に振り回される生々しい人物を演じていてなぜかどっきりしました。
息子役が小林旭。
これは全然知らなかったので、わあーと思ってしまいました。ビリヤードでキューを構えるときの目は野獣のようで思わずドキリ。
銀座の並木通りにあるレストランの窓ガラス越しに並木座が映り、嬉しくなりました。
映画の中の並木座はちょっとお洒落な映画館といった感じでした。いまの並木座は渋いという言葉がぴったりですね。
場末ではあの頃も女性が往来を上半身裸で歩いていたということも驚きでした。
日活のロゴが映し出されると同時に車のエンジンの音。
ギアレバーと手のクローズアップ。
アクセルを踏み込んでいる靴のクローズアップ。
スピードメーターのクローズアップ。
カーラジオのクローズアップ。
スイッチが入れられる。テーマ音楽が始まる。
冒頭から中平監督の清新な感覚が飛び散ります。
最後は列車の窓の中の紀伊の美しい海。
トンネルに入り、窓は黒一色になる。そこに「殺したのは誰だ」とタイトルが入る。そして映画は終わる。
この辺の感覚は本当に若々しいと思います。
カットの構成がとても考えられていて、感心します。
賭けビリヤードのシーンなんかは編集(モンタージュ)によって非常に緊迫感の高いものになっています。
菅井が自動車をぶつけようとするシーンを例に取ると、
鉄道の高架線の下の向こうに小さく見える障害物。
それを自動車の窓から首を出して不安そうに眺める菅井の顔。
アクセルを踏む菅井の足のクローズアップ。
排気管から出る白い煙。
猛スピードで走る車を正面から捉えたカット。
迫ってくる障害物。
なんでもないシーンでもカット構成に注意しながら見ると、その緻密さに驚かされます。
僕の知らない監督で優れた監督はいくらでもいるんだなあと思ったことでした。
1996/03/09