- 1956年東京映画
- 監督:豊田四郎 原作:谷崎潤一郎
- 撮影:三浦光雄 音楽:芥川也寸志
- 主演:森繁久弥/山田五十鈴/香川京子
秋晴れの気持のいい日、東京国立フィルムセンターに、また山田五十鈴特集を見にいきました。「たけくらべ」で、中年女の図太さを演じながらも、元花魁の粋な仕草をほの見せていた、その演技の上手さに感動してのことです。
少し東京国立フィルムセンターに関して、紹介しておきましょう。
入場券は、上映の1時間前から発売されます。390円と嬉しい料金になっています。開場は、上映の30分前です。上映は、主に2Fの大ホールが使用されます。明るく小綺麗なホールです。
最近では、アルフレッド・ヒッチコックのイギリス時代のトーキーが上映されたのが、とても嬉しかったです。映画を気に入り、真剣に付き合ってみようと思っている人には、お勧めの映画館?です。
森繁久弥は、優れたコメディアンですが、独特の個性があり、嫌いだなという人もかなりいそうな気がしますが、この作品にはぴったりでした。
明るい海岸で、猫と戯れる正造。すごくエロチックなシーンでした。
最後は、ずぶ濡れになったリリーを、正造が抱いて、雨に濡れながら海岸を歩くシーンで終わります。
そのシーンは、ピアノの奏でる不協和音で印象深いものになっていました。
正造を取り巻く二人のをんな。いや、前妻、後妻、母親の三人のをんな。
彼女たちは、俗世間を代表する存在でしょう。彼女たちは、欲と嫉妬と意地にがんじがらめになっています。
正造は、猫を通して純粋なエロスに触れることによって、かろうじて俗物になることを逃れている人間です。その正造が、ついには帰るところも無くしてしまうのには、強い皮肉を感じました。
後妻が、猫に嫉妬するシーンが秀逸でした。
それまではしゃいでいた後妻が、猫を可愛がる正造を見て急に顔を曇らす。それだけの演技なのですが、香川京子の演技が絶妙で、とてもよかったです。
クライマックスは、なんといっても、前妻と後妻の対決でしょう。
クローズ・アップで捉えられる、嗔恚に燃えた2人の顔。
掴み合いを演じぼろぼろになった2人を捉えるロール(傾き)・ショット。
そうそう、タイトル・ロールで使われた書き文字の書体が、可笑し味があり、なかなかのものでした。
1995/09/21