- 1997年フランス映画 6/11パシフィコ横浜
- 監督:ブノワ・ジャコ 原作:三島由紀夫
- 撮影:Caroline Champetier
- 出演:イザベル・ユペール/ヴァンサン・マルチネス
上映後の質疑応答でブノワ・ジャコ監督は三島の数ある作品で特に『肉体の学校』を選んだ理由を聞かれ、そもそもイザベル・ユペールを主演にしてなにか映画を撮りたいというのが出発点にあり、イザベル・ユペールにぴったりな原作として三島のこの作品を選んだと答えていた。
そのブノワ・ジャコ監督の言葉からも分かるように、この映画はイザベル・ユペールのためにあるような映画だ。
しかしユペールその人は前面には出てこない。
そのような俳優自身が前面に出てくるスター映画からはこの映画は最も遠い。
この映画で前面に出てくるのはイザベル・ユペールが演じるドミニクという女性だ。
この映画はシネマ・スコープで撮られているが、その大きな横長の画面をユペールの演技がしっかりと支えている。
こう書いてくると、ハリウッド型の泣き叫び喚きちらすいわゆる名演を思う人がいるかもしれない。
そのような名演からユペールの演技は最も遠い。
愛する青年のことを心の冷たい人間だと言われたとき、ユペールの演じるドミニクは僅かに目を横に動かす。その微妙な目の動きがドミニクの心を見事に表現している。
ユペールの顔のクロース・アップが印象に残った。
いま挙げたようなちょとした目の動きとか、微妙な顔の表情の動きが、ドミニクという女性をはっきりと僕たちに観せてくれていた。
ユペールはけっして大げさな身振りや表情はしない。でもしっかりと大きなシネマ・スコープの画面を支えていた。それは改めて映画的演技がどんなものであるのかを僕たちに示してくれる。
近代イタリアを代表する女優、エレオノーラ・ドゥーゼは生涯ただ一回だけ映画に出演しただけなのだが、優れた演技者に相応しくこんな言葉を残している。
映画は演劇とはまったく別の身振りを展開させることができます。例えば、一つの運命を決する密かな握手を映し出すことのできる、はっきりした画面を想像してごらんなさい。こうした場面は、舞台上では気づかれずに過ぎてしまうのです・・・ユペールはこの言葉にもろ手を挙げて賛成するだろう。
1998/06/11